友人からローズオイルをいただいた。
数多のバラの中でも「香りの女王」と呼ばれるダマスクローズの精油を。
フタを回してみると、一瞬にして視界に鮮やかなピンク色のバラ園が広がる。
柔らかくも包み込むように芳香を放つオイル。
この1mlを蒸留抽出するのに、朝摘みした上質なバラの花弁、2000枚以上が必要だそうだ。
ディズニー映画「アラジンと魔法のランプ」の大魔王がぎゅーっとぎゅーっとダウンサイズされて魔法のランプに押し込まれ、必要な時にその封印が解かれヒュルヒュルと頭上いっぱいに蘇る。
そんな映像がふと頭をよぎった。
精油の精、エッセンシャルオイルのエッセンスとは、こんな感じに濃密に凝縮されているものなのだろう。
その生命体の持つ真髄であり、根本でもある精。
花や植物には、放つ香りがある。それによって我らはその精を感じることができる。
では人間の精は、どのようなものなのだろうか。
以前の記事(東洋医学各論3 腎)で東洋医学における腎には、泌尿器として老廃物を尿にしてデトックスする働き以外に、成長・発育、生殖、老化といった機能も含まれると書いた。またその記事の中に「腎精」についてもちょっと触れている。
今回は、東洋医学の根幹をなす用語の解説も含みながら、人体の精についてお伝えしたい。
腎、ふたたび。。
東洋医学では、先天の本(ホン)と呼ばれる腎。その最も大きな役割は「精を蔵する」ことだとされる。そして腎に蓄えられる精を「腎精」と呼ぶ。
その腎精とは、どのようなものなのだろう。
父母の精が合わさって先天的に親から子へ受け継けつがれたものを「先天(せんてん)の精」という。
これに対して自分自身で作り出すことができる「後天(こうてん)の精」というのがある。これは、脾(西洋医学の脾臓とは異なり、ここでは消化吸収の臓器)の消化・吸収といった働きにより飲食物から得られた滋養、エネルギーをもとに作られるエッセンスである。
そして、この「先天の精」と「後天の精」を合わせたものが「精」となり、腎に貯蔵され「腎精」となる。
(注:腎精には広義と狭義があり、広義においては「先天の精」と「後天の精」を合わせたものをいい、狭義では腎に蓄えられた成長・発育や生殖の源である「先天の精」だけを指す。ここでは広義の腎精での説明。)
「先天の精」は有限であり徐々に枯渇していく運命にあるが、「後天の精」によって絶えず補充されて、成長・発育、そして生殖といった生命体の基本的活動のオオモトとなる。
ここにどんな飲食物を選び、どのように食べて消化吸収しているのかということの重要性がある。先天の精を十分に補充するためには、後天の精の質を上げて上質で充分な精を作る必要があるからだ。
腎精は生命活動の基盤となるのだから、病気の治癒には欠かせない。
それゆえどのような病気であれ、それを治すには食事の見直しを抜きにはできないのだ。
病弱な子供に精をつけさせるため、特別な食事が与えられるケースも多い。
臨床例をあげるならば、
アトピーや喘息という病気を持った子供は、「先天の精」が弱いと判断できる。
しっかり身体に良い物を食べて消化吸収力をアップさせると、良くなっていく場合もある。また夜尿症も、キチンと食べることができるようになって治っていった症例もあるのだ。
不妊症の患者さんが胃腸を整えたら、懐妊した例もいくつかある。
高齢者でお元気な方というのは、健啖家(なんでも好き嫌いなく、たくさん食べる人)で胃腸が丈夫な人が多い。これは加齢とともに枯渇していく先天の精を後天の精で補っていると言えるのだ。
腎に受け継がれた「先天の精」 と 脾によって作り出される「後天の精」。
これらが合わさり人間の精ができあがり、
腎に「腎精」として貯蔵され、
必要に応じてその封印が解かれる。
「あなたはあなたの食べた物でできている」という文言を見かけるが、「あなたは両親から受け継いだものと食べたものが合わさってできている」ということもできる。
さて、その「腎精」の働きとは、どういうものなのだろうか。
腎精の主な仕事は、
①成長・発育を促す。
ゆえに不足してくると発育不全や老化となる。
②一定の年齢に達すると、天癸(てんき:生殖能力に関わるホルモンのような物質)を作り、生殖機能に関わる。
ゆえに腎精不足が原因で性欲・性機能減退や不妊症にもなる。精力減退という言葉も、腎精不足という意味である。
③腎陰・腎陽をうむ。
腎精は陰陽が分化する前の丸ごとの生命力の本質である。ここから陰陽に分かれ、他臓器の陰陽を生む。つまり、人体にまつわる陰のオオモトは腎陰であり、陽のオオモトは腎陽となる。こうして生まれた諸臓器の陰陽は、拮抗したり相補的関係になったりしながら生命活動を繰り広げるのだ。
つまり腎精は、陰陽未分化状態のエネルギーのバッテリーともいえる。
④髄を生じ、脳を満たす。
髄には脳髄、脊髄、骨髄、歯髄があり、人体の根幹をなす。それゆえ腎精不足は健忘症、骨密度の低下・骨粗鬆症となり、歯も抜ける。歯は「骨余(こつよ)」と言われ、骨髄と関係がある。また骨髄からも血が作られるが、髪は「血余(けつよ)」と呼ばれていて、腎精が不足すると髪の状態が悪化し、抜け毛、白髪になる。
精神という言葉にも「精」が使われているように、脳との関わりも深い。
「精をつけなきゃ!」と、病気の時、体力・精力減退を感じる時、元気が欲しい時に思うのだが、この言葉の元々は「腎精をつけなきゃ!」なのだ。
我らの「腎精」が
アラジンと魔法のランプの大魔王が現れた時のように
自らをすっぽり包み込んだなら
それぞれの人生はどんな彩りの花を咲かせてくれるのだろう。
<おまけ>
今回は「精がつく」食材を少し。ネバネバ系の納豆、オクラ、山芋、自然薯など。ビタミンEを含むウナギ、アボガド、ナッツ。亜鉛を含む牡蠣、ゴマなど。
これからの季節、土用の丑の日にはウナギで目減りする腎精の補充を是非とも!
<後記>
腎のことを書き始めたら、まとめきれない程いっぱい、いっぱいお伝えしたいことがありました。
また追ってお伝えすることと思いますが、
東洋医学で基本概念である自然治癒力とは、腎精の充実がなくては始まらないのです。
また老化にまつわる全ての病気が腎精の目減りによるもの。
耳が遠い、白髪になる、目が見えなくなった。。
骨粗鬆症などはカルシウムの補充にのみ目がいきがちですが、
同時に腎精をチャージすることがとても大事です。
これは、様々な老化現象にももれなく当てはまります。
病気は部分的に表現されてはいるものの、同時にオオモトの流れがあるとする東洋医学の見方が少しでもお伝えできたら嬉しいです!
腎の色とされる黒をバックに、自宅にて撮影。
(自然界のものを5要素に分類する五行論という中国思想において、腎は黒色の性質に象徴される)