“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

気!流れる身体1 腕

アンティークな円錐ドーム型の鳥カゴを想像していただけるだろうか。

私は即座に、背骨と胸椎と左右12本ずつあるあばら骨とが接合してできる人体の骨格、すなわち胸郭を思い描く。内臓を納めて保護する、そんな場を作るための胸郭を。

今回は、この骨でできた鳥カゴが作りだす空間、そこに鎮座まします臓器(陰)と 鳥カゴの外で自由に動くことのできる手足(陽)ーこれらの関係について、経絡(けいらく)という気の通り道を踏まえて考えてみたい。

(注:経絡とは東洋医学でいうところの 気 の通り道のこと。気 の出入りする場所であるツボを、人々が電車を乗り降りする「駅」と例えるなら、経絡は気の通り道である「線路」といえる。)

 

たとえばの話。

自分の腕は、身体の中でどんな役割をしているのかと聞かれた場合、

身体運動に関わると答える人が圧倒的に多いと思う。

もし腕が特定の内臓と関係しているといったら、多くの人に笑われるかもしれない。

 東洋医学では、腕は肺や心臓といった胸郭上部にある臓器との関連が深いのだ。

つまりそれぞれの臓器の身体における位置により、気の通り道である経絡(けいらく)の流れ方が決まる。腕に流れるのか、あるいは足と絡むのかが。

 

さてここで経絡の流れを説明する前に、東洋医学独自の臓腑概念である 「三焦(さんしょう)」と言われるものについて説明したい。

この三焦とは、五臓六腑の六腑中で最大の腑とされるものだ。人体の腕と脚を除いた躯体部分を3つに分け、それぞれを上焦・中焦・下焦という。これら3つを合わせた総称を三焦と呼ぶ。つまり、胸郭を頂点とし骨盤を底辺にした鳥カゴ全体を指すことになる。

(注:五臓六腑とは肝・心・脾・肺・腎、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦をいう。臓は実質臓器で腑は中空の器官。)

ざっくり言うと、三焦は 水分の運行 と 気の昇降 を行い、臓器の腎・胃・肺と特に関係が深く、リンパ管系と解釈される場合もある。「焦」という字から熱量を表すエネルギーを示すという説もあり。躯体全体の場をあらわし、臓腑としての実態というよりは、そこでの機能として捉えた方が分かりやすい(う〜ん、分かりにくね!つまり、器官の形は見えねど、働きはあるという感じ。五臓五腑を納めている場と捉えると分かりやすいかも)。また五臓六腑は経絡を有しているので、三焦にも三焦経と呼ばれる経絡がある。

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上焦は横隔膜から上の空間部分を指し、肺や心臓を内包する(広義では頭顔面部も含む)。

中焦は横隔膜からヘソまでの脾や胃を含む空間となる。

下焦はヘソより下の小腸・大腸・膀胱などを含み骨盤までの空間をいい、肝・腎も含まれるとされる(広義では下半身全体を含む)。

 

上焦に位置する内臓、そこにまつわる気は腕へと流れ、さらに腕から臓器へと戻る循環を作り出す。

つまり、肺や心臓の経絡は腕へと流れている。

中・下焦にある内臓にからむ気は下半身をめぐる循環網を築いている。

ゆえに肝・腎・脾の経絡は足先から躯体へと昇って各々の内臓と繋がりつつ更に枝分かれして流れ、胃の経絡は足へとむかう流れを作る。

<補足:主要な12本の経絡には、それぞれ流れる方向がある。例:肝・腎・脾の経絡は足先から上へ向かう。肺や心の経絡は各臓器を通って手指の末端へと向かう。この方向を含む経絡の流れのことを「流注(るちゅう) 」と言う。>

こうして内臓は実質臓器のみの働きだけではなく、内臓が網羅する流れに生命エネルギーを載せて末端の手足をめぐることになる。

以下の経絡図を参照(岡本一抱の「十四経絡発揮和解」) 

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肺や心臓といった内臓が腕と関連していることをザックリ理解していただいた所で、

実際に腕と内臓がリンクしている臨床例を少し。

 ・職業柄腕を使う美容師さんが、慢性気管支炎の治療にみえた。腕の疲れがひどく、凝りも強い。常態化した腕の疲れを取っていくことで、咳が治っていく。これは、肺の経絡の流れが詰まっているケース。

・高血圧で狭心症の患者さんのケースでは、肩、首、腕がパンパンに張っていることが多い。特に左前腕内側の中央ライン上で、肘と手首の真ん中より2センチ位手首寄りの場所(ゲキモンという名のツボ)が、格段に硬くなっている。心臓疾患がある方には、大体共通してこのゲキモンに反応が出ている。腕全体の凝りと詰まりをとることが大事な治療になる。

・就寝中に気がつけばバンザイの格好をして寝ているらしく、朝起きると腕が痺れているという方の場合、起きてる時の姿勢が猫背気味で肺が圧迫されていたり、肩・首の凝りが強いことが多い。胸郭を開いたり、肩周りの筋肉を緩める姿勢を無意識ににとってしまう。しかしこの姿勢により更に腕が冷える→血液循環も悪くなって凝りを増す→肺や心臓の経絡が詰まる→腕がだるい→バンザイをすると腕の内側ものびて気持ちがいい→悪循環となる。

・肩や首の凝りは自覚しやすいが、腕の凝りは自覚が少ない。腕を十分に緩めることで、実は肩甲骨周りや首の凝りは相当楽になるケースが多い。肩甲骨の動きが良くなると呼吸が楽になり、心臓の働きも良くなって不整脈が改善されるケースもある。

 

このように肺や心臓の負担を減らすためには、まずは腕の凝りを取り、余計な力を抜いて気の流れをよくすることが大切になる。自覚ある一部分を揉んだり緩めたりしても、溜まっていた邪気の流れ処がなければ、また戻ってきてしまうのだから、その部分を含む流れを作らなくてはならない。

 

凝り(凸:陽)がとれて緩んでくると気が流れる。

力のないところ(凹:陰)にもエネルギーが廻りはじめる。 

目指すべきは、

気!流れる身体。

ここに免疫力が宿る。

 

鳥カゴの形をした人体の胸郭。

この場所にある臓器たち。

それらのそれぞれのエネルギーが手や足という外の世界へ飛び出しては、また戻ってくる。

 

ドーム型をした大聖堂では、日曜日ごとに礼拝が行われている。

そこに人々が集い祈っては、また日常へと返ってゆく。

鳥カゴに守られた臓器のエネルギーが巡る様にも似ているように、今の私には思える。

 

我らの身体内部に鳥カゴがあり、

それが大聖堂へと形を変えて、

身体の主要機関である内臓を守ってくれているとしたら。。

 

そんな風に感じてみるだけで、

神聖さに満たされて、

安心できる気がするのだ。

 

(自分でできる腕を緩める方法)

両膝をたて、仰向けに寝る。片方の腕を手の甲がお尻の下にくるように身体の下敷きにし、体重のかけ具合によって、または身体の向きを変えるなどして、圧迫し腕を感じてみる。両膝を伸ばしたり、腕の位置や肘の曲げ具合などを少しずつ変えてみるのも良い。

 

(後記)

三焦という東洋医学独自の概念は、なかなかわかりづらいと思いますし、説明も難しいです。ただ私は、場の概念も網羅した東洋医学の面白さとして、ずっと注目してきました。

身体は、物理的な道具としての側面と

エネルギー体として変容し得る場としての側面とを併せ持っています。

自らの「身体場」の管理者は、この私。

身体に対する信頼を強めていきたいと思っています。

 

どうか腕の凝りを取って、温めて、緩めて、肺や心臓を守り、免疫力を高めていただければ嬉しいです。 

 

新型コロナウイルスの流行が1日も早く収まりますようにと切に祈ります。

 

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トルコ、イスタンブールのブルーモスクにて撮影 。本文中の図はネットから拝借。

 

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