“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

東洋医学各論5 肝

春になると肝臓が動きだす。

草木が芽吹きだし、小さな蕾が膨らみだすように。

冬眠していた動物たちが目覚めるように。

エネルギーを貯蔵する性質を持ち、冬に活躍する腎。その腎から、伸びやかに拡がる力を持つ肝へとバトンが渡された。

季節のめぐりに呼応して、我らの体の中で主役となる臓器も移りかわるのだ。

 <注:東洋医学で「肝」といった場合、西洋医学でいう肝臓の概念とは異なる。西洋医学では、肝臓という解剖学的な部位である実質臓器を指すが、東洋医学においては、実質臓器の他に肝臓に関わる機能をも含んでいる。それゆえ「肝」には東洋医学独自の解釈である①蔵血作用②気の運動や循環といった巡りを調節する疏泄(ソセツ)作用が含まれている。>

 

古代中国思想で人体は小宇宙と言われるように、宇宙のリズムがそのまま人体にも当てはまる。1日の中でも巡りくる時間に応じて特定の内臓の動きが活発化し、季節においても主役となる臓器が移り変わる。春は肝、夏は心、土用は脾、秋は肺、冬は腎といった流れで、生・長・化・収・蔵といったリズムを作り出す。(注:土用とは、立夏立秋立冬立春の直前約18日間をいう。)

 

また陰陽論で臓器を見てみると、

押し進める力の推動作用、温める力の温煦(おんく)作用をもつ陽の気の臓器と

栄養・滋潤作用をもつ陰の気の臓器とに分けられる。

この視点で分類するならば、

肝・心・肺は陽の働きを持つ臓器であり、

腎・脾は陰の臓器となる。

(補足:陽とは、上・外へと向かう拡散されるエネルギーを指し、「火」に代表される「熱」や「動」の性質を帯び、外部へ押し進める力と持つ。陰とは、下・内へと向かって凝集するエネルギーをいい、「水」に代表される「寒」や「静」の性質を有し、内部を育む。)

  

自然界において、肝は流れゆく風 や しなやかに枝を伸ばす木 に象徴される。

時に激しさを持ち、変化を促す風に。

大地に根をはって陰の滋養を享受し、天に向かって自由闊達に枝葉を拡げていく樹木に。

そして肝を象徴する色は、青。

(補足:草や木の葉色、新緑色である蒼 や  緑、青緑である もアオと読むのであるから、緑色をも含む青としてとらえるのが良いと思う。)

 

春になると()、春一番が吹き()、草木が伸びて()、新緑が輝く()。。

 

このように考えるとき、肝が有するエネルギーの性質が見えてくる。

軽やかに進み、躍動し、発散し、上昇し、拡張する。

 

身体の部位においては、動きを作り出すことのできる筋肉(腱や靭帯も含む)に肝の働きをみる。 

 

そして肝の蔵血機能には血液を貯蔵し、血流量を調整し分配する作用があるため、

肝の異常は、、あるいはに現れる。

は肝血不足で栄養不良となり、縦皺がはいり脆くなる。変形したり、色・つやが悪くなる。

は血行不良による痺れや震えがおこり、あるいは腰痛で腰を曲げられないなどの屈伸不可になることもある。

は血行不良で、充血、視力低下、かすみ、ドライアイに。肝が清浄な子供の白目部分はきれいな青色を呈する。

(注:肝と目の繋がりは気の通り道である経絡からも読みとれる。肝の経絡は足の親指から目を通り頭頂へと向かう。下図参照。)

岡本一抱の「十四経絡発揮和解」より厥陰肝經之圖 」(ネットより拝借)

f:id:garaando:20200524010838j:plain

 

更にそれぞれの臓器には、特定の感情が対応するとされており、肝はりと結びつきやすい。

誰しも怒った時は、気が上昇して頭にくる!(参照:上図の経絡図。肝の経絡の流れは下から上へ向かう)   外に向かって発散し、爆発的で熱量を帯びる。これは肝の持つエネルギーの性質と類似している。

伸びやかで、陽気なメンタルが保たれ、決断力・行動力が充実している時は、肝の状態が良好であると判断できる。

一方、肝の疏泄作用(ソセツ作用:気の運動や循環といった巡りを調節する作用)が失調すると感情が変わりやすくなる。この作用が亢進すると興奮状態になりやすく怒りっぽくなり、ついに爆発!!

もし、それだけのエネルギーが停滞し内側へこもったならば、抑鬱状態となり動くことが億劫になる。一般的な鬱(ウツ)病も、実は肝との関わりも深い。

 

さらに 東洋医学では、「」と「」は表裏の関係にあるという。

(補足:「肝胆相照らす」というのは、極めて親しくつき合うという意味で、肝と胆の結びつきの強さが理解できる。)

またそれぞれの内臓には、生命活動に必要な行いを統括する力が備わっており、

「肝より謀慮いづ」「胆より決断いづ」とされている。

つまり考慮する肝 と 決断する胆 とが連携して実行力が生まれるのだ。

 

このように肝の特質を見ていくと、肝気旺盛な人のタイプが見えてくる。

筋肉が発達していて肉づきが良く、行動的。気が上がりやすく上半身がガッシリしていて肩幅が広い。頭皮は硬く頭髪は薄くなりがち。目力あり。エネルギーに溢れ、決断力や実行力があるため、リーダーとしての素養がある。陽気で、スピーディ。人を巻き込み現実を変えていく力がある。一方でうまくエネルギーを使いこなせない場合は、怒りやすく、気分にムラがある。移り気。浮気性で、わがままにもなる。

 

自分が肝気旺盛なタイプでなかったとしても、

もし優柔不断でなかなか行動できない時があったなら、

それを自分の性格と決めつけずに、

単に肝と胆が弱っている状態なのかもしれないと考えてみてはいかがだろうか。

 

(おまけ)

肝と関連あるもの:

自然界においては 木・春・風・青。

人体においては 爪・筋・目・胆。

  

 (後記)

木の芽どき。季節がめぐり陰から陽への流れに切り変わる時です。春先になると、その変化の大きさに体調を崩すとかメンタルがダメという方も多い季節。

今年は、この動きだすエネルギーが外へと向かう時期に、Stay Homeと言われ著しく行動に制限を加えなくてはなりませんでした。

この自然のリズムに反する行動が、心身に与えている影響はどれほど大きいのでしょう。行動を自粛しなくてはならなかったとはいえ。。

ただでさえ言葉にならないような複雑な感情を抱えているであろうこの状況の中で、モヤモヤを他人にぶつけたり自分を攻撃したりしないために、理解して欲しいと思います。身体のエネルギーが外へ向かう季節なのだということを。

安全な方法で運動をしたり、いつもよりゆっくりお風呂に入って汗をかき、創造的な遊びを見つけて、エネルギーを発散する循環を何かしら工夫して欲しいと思います。たとえ行動範囲が小さくとも、ネ!

 

f:id:garaando:20200528092344j:plain

 春。小樽にて撮影

 

こちらも参照!

garaando.hatenablog.com

garaando.hatenablog.com