“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

東洋医学各論8 肺

憂いあふれる和風美人画の作者、竹下夢二。

彼の描く女性像は、色白の瓜実顔で髪の毛が多めの痩せ型。そして独特の情感に溢れている。

背丈はスラッとしているから声帯も長いはず。それゆえ声は低くたぶん小さい。このようなタイプの女性がもし病いを患うとしたら、肺結核かなと勝手に想像してしまうのだ。

 

今回は、外見に表れる特徴から体質を読み取って病と結びつける東洋医学的な解釈を、肺という臓器を取り上げて探ってみたい(以下、東洋医学の専門用語や注目すべきは太字で記載)。

 

<注:中医学には臓象学説といわれる考え方がある。これは器という身体の内側(陰)の活動異常は、必ず外側(陽)の現に表れるとし、その関係性に着目するもの。具体的には実質臓腑である肝・心・脾・肺・腎(五臓)は、それぞれ胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦(六腑:)と経絡が通るルート)を通じて関係しあってシステムが作られている。肺は大腸と、それぞれ経絡のルートで通じ合い、表裏の関係となる。さらに肺は呼吸器であるからと繋がっており、皮膚呼吸という視点で見れば皮膚および皮膚上に生えるうぶ毛(あわせて皮毛と呼ぶ)ともシステムを形成している。中医学で肺という場合、肺という実質臓器の他に生理や病理といった働きを含むシステム全体をさす。これは、肺という解剖学的な臓器のみを示す西洋医学とは異なる点である。>

 

肺の主な役目は、気をつかさどること。これには①呼吸の気と②全身の気があり、両者2つの気をつかさどるとされている。

 

清気を吸って不要な濁気を吐く。この動作を行うと横隔膜が上下し、胸腔と腹腔とで「昇降(しょうこう)」と呼ばれる活動が始まり、身体全体へ気を巡らせることができる。

このことは、肺が単に酸素と二酸化炭素の交換だけをしているのではなく、呼吸のリズムによって全身へを巡らす循環も担っていることになる。

 

心(シン)が血液のポンプであるなら、肺は呼吸というリズムを生み出すことによって気のポンプを作ると考えてもいい。

 

気が全身へと巡れば、心(シン)の血液運搬を助け、さらに津液(シンエキ:血液を含む体内の水分の総称)の運搬や排泄と関わり、尿や汗もコントロールする。このように肺は、呼吸によって大気から気の材料になる清らかなる気を取り入れ、さらに呼吸のリズムによって昇降という物理的運動を起こし、気を全身に巡らせて全身の新陳代謝を促し、その結果として水分代謝を促進させる。それゆえ、肺には水分の巡りをよくする働きが含まれる。肺が機能低下になると、呼吸不全や咳の他、痰やむくみ、鼻水が出てくるのも、水分代謝と関わっているからなのだ。

 

呼吸についてもう一度考えてみる。

呼気(吐く)の動作は、上と外に向かい(これを中医では、宣発:センパツという)、吸気(吸う)のそれは、下と内に向かう(粛降:シュッコウという)。

この上にあがり外へと向かう力である宣発が起これば、体表にある津液という水分をめぐらし、栄養を運んで皮膚に湿いを与えることができる。

身体の表面である皮膚が正常である場合には、外界と接する境界線(バウンダリ)を形成する。これにより外界からの攻撃に対して自己の内的世界を守り、排泄すべきものは汗となって発散しながらバリアを作り、防衛機能をアップさせる。したがって肺がきちんと働いていると風邪をひきにくくなるのだ。

このように肺と皮膚は呼吸という共通の役割を果たしている。

また下と内に向かう粛降は、気や津液および栄養を体内の下方へと運び、諸器官を滋養する。つまり呼吸により気を取り入れ、津液を体内の下(腎や膀胱)へと運び、津液の巡りを潤滑にする。

このように水分代謝のプロセスをみてみると、肺が汗や尿の出かたにも実は関わっているのである。

 

<臨床からの考察>

喘息(肺)とアトピー性皮膚炎(表皮)とは密接な関係が認められる。ともにアレルギーの病であり、喘息が発症している間はアトピーは起こらず、アトピーが酷い時は喘息は収まっているケースはよく見られる。これは排泄のパターンの現れ方の違いである。アトピーが良好になっていくには、汗がかけるような体質になることが大事だと臨床例を通して思う。津液の代謝を促進させ(ケツ)の不足を補うことが、喘息とアトピーどちらの治療にも必要なのだ。

 

 また肺は、大腸と表裏の関係にあるという。

これを経絡の流れで見てみる。

下2図は、肺と関連する経絡図。肺経 と 肺と表裏の関係にある大腸経

 は体表ルート、は体内ルート

矢印はそれぞれの経絡の流れる方向

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肺経のルート

上腹部から始まり大腸と肺を通り喉を巡り、腕のつけ根から体表に表れる。

肩の内側から腕の内側を下り親指先で終わる。手首で分岐して人差指から大腸経へと繋がる。 

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大腸経のルート

肺経の流れを受けて人差指から始まり合谷というツボを通り腕の外側を上って肩へ。

鎖骨下で体表と体内に分岐。

体内ルートは肺を通って大腸へ向かう。体表ルートは喉を上り反対側の小鼻の傍のツボで終わる。ここから胃経へと繋がる。

注:一般的には緑色の経絡の流れは顔面の対側の鼻の横へ。この図では同側の鼻の横になっている


このように、肺経と大腸経とは、経絡が通るルートの位置も腕の外側と内側で表裏をなしている。また肺の機能が低下すると津液の流れも悪くなり、大腸は乾燥して便秘になる。大腸に熱がこもれば、胸が苦しくなったり、咳が出たりという症状にもなる。大腸の汚れが肺とシステムをなす表皮に現れることも多い。

 

東洋医学でいう肺と関係ある病いには、西洋医学でいう呼吸器としての病いに加え、鼻の病いや嗅覚の異常、皮膚疾患、むくみ・排尿・発汗のトラブル、大腸にまつわる病気、免疫に関する感染症やアレルギーなどがあげられる。

 

気の医学であるとされる東洋医学において、

気をつかさどるとされる肺は、

実に幅広くその役割を担っている。

 

(おまけ)

肺と関連あるもの:

自然界においては 秋・燥・西・白

人体においては 大腸・鼻・息・皮毛・悲しみ(憂い)

 

(鼻呼吸のススメ)

この時期、良質の睡眠が免疫アップには欠かせない。

オススメは、睡眠時の鼻呼吸。

いびき・睡眠時無呼吸症候群の改善、風邪や感染症の予防、高血圧の予防にもなり、疲れやすさも改善される。

口にテープを貼って寝るだけ。縦ばりでも横ばりでも。慣れるのに数日かかる方も多い。続けているうちに慣れてきて、呼吸器のトラブルが軽減される。

市販のテープはいろいろあれど、ランニングコストもやすく接着剤の匂いもなく、アレルギーにも大丈夫なのは、このテープ。ぜひお試しあれ!

 

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秋の小樽。早朝に撮影