“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

東洋医学各論11  経絡(けいらく)

ふと幼い頃の風景が浮かんでくることがある。

先日も懐かしの遊び、炙(あぶ)り出しを思い出した。みかんの絞り汁で紙の上に絵を書いて乾かす。火で炙ると滲(にじ)みながらも秘密の絵がぼんやりと浮かびあがる、炙り出しを。

 

こんな事を思い出したのも、その日の治療で目にしたもののせいかもしれない。人体の表層に炙り出され目に見える形に姿を現したライン、東洋医学でいうところの経絡(けいらく)。それが、患者さんの手から腕に浮かびあがっていたのだ。

彼は、手から腕にかけての湿疹が治らないと言った。

診てみると大腸の経絡の流れに沿って、まさにツボの位置に見事に湿疹が並んでいる。

「大腸に問題があるかもしれない。思い当たることは?」と尋ねてみると、

「実は、もともと大腸が弱い。以前にオペもしているし。。。」とのことだった。 

 

f:id:garaando:20210422103241p:image 左図:大腸の経絡ラインにできた湿疹

 右図:大腸の経絡図 (部分)とツボの位置

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大腸の経絡図(全体)。は体内の、は体表の流れ     

 

 

今回は、この経絡について掘りさげてみたい(太字は東洋医学の用語)。

 

東洋医学は 気の医学 と言われている。

両親から受け継がれ成長・発育を促す根源的な生命力を先天の気といい、

飲食物からの栄養(地の気)と 呼吸によって得られる酸素(天の気)とを合わせたものを後天の気という。

この 先天の気 と 後天の気 とが合わさって真気(しんき)となり、これこそが生命活動の原動力となる。

この真気がめぐる通路を経絡(けいらく)と呼び(注:「」ケツと呼ばれる栄養分も経絡をめぐります!)、この経絡上の要所に360余りの経穴(けいけつ。ツボのこと)がある。アナと書いてツボなのだから、ツボは通常ちょっと凹んでいる。そしてそこは、気が出たり入ったりしてエネルギー調整をしている場所となる。

つまり経絡とは、スパイダーマンの網の目のように全身を巡っているラインのうち縦のライン(注:横のラインは脈絡といい、経絡と脈絡を合わせて経脈という)を指し、気血(きけつ)の通り道のことをいう。

五臓六腑に心包(しんぽう:「心(しん)」を覆う外膜。東洋医学独自の概念で、実体のない臓器とされている)を加えた六臓六腑は、それぞれの臓腑をまとう経絡を1本づつ持ち、合計で12本となる。それぞれの流れは途切れることなく繋がっていき、身体全体に循環輪を形成する。ここでは基本となる14本の経絡ラインを紹介したい。

 

<循環輪を構成する12本の経絡>

1肺経:肺を調節 → 2大腸経:肺経と協力して大腸を調節 →   3胃経:胃を調整し、消化吸収を調節 →   4脾経:胃経と協力して消化吸収を調節 →   5心経:大脳と心(しん)を調節 →   6小腸経:心経と協力して小腸を調節 →   7膀胱経:膀胱を調節し、腎経と協力して生殖や老化に関与 →   8腎経:腎を調節し、生殖や老化に関与 →   9心包経:心(しん)を調節 →   10三焦五臓の働きに必要となる熱や水分を運搬 →   11胆経:肝経と協力して胆を調節 →   12肝経:肝および血液を調節  →   1肺経に戻る

これら12本の経絡は、それぞれの内臓を巡る体内を走るラインと、体表を走るラインとが繋がってできている。<例:肺経のライン 体内の上腹部から始まり大腸と肺を通り喉を巡って腕のつけ根のツボ(中府:ちゅうふ)から体表へ現れ、腕を降って親指先のツボで終わる。手首で枝分かれして人差し指から大腸経へとつづく>

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肺の経絡図。は体内の、は体表の流れ

 

督脈(トクミャク)と任脈(ニンミャク)>

督脈と任脈とは会陰から頭頂を結び躯体の正中線を一周する経絡で、これは気功の小周天の巡りとなる。後面を督脈といい、前面を任脈と呼ぶ(督脈:背面の経絡を監督し、任脈と協力して脳を調整、任脈:妊娠にも関与)。

 

督脈と任脈は12本の経絡とも繋がっており、12本の経絡に督脈と任脈の2本を加えて、基本となる経絡のラインは全部で14本となる。

 

ふぅぅ。。言葉で説明するには、大変に難しい。

そこで、他人様の動画を拝借することに。。

人体には気の通り道なるラインが繋がりあって、こんなシステムがあるよ!というイメージを持っていただけたら。。

 

 12経絡のラインがわかりやすい動画(ネットから拝借)

www.youtube.com

 

 体表の経絡ラインが体内の内臓や器官と繋がっているという動画(ネットから拝借)

 

気の通り道であり、身体全体に張り巡らされたネットワークである経絡のことをイメージしていただけただろうか。

東洋医学においては、気の流れの滞り、気の過少や過剰こそが病気の原因とされている。

そして経絡上に気の異常は現れる。経絡は臓腑を巡っているので、経絡の異常は臓腑にも影響を与えるし、臓腑の病いは経絡上のツボに湿疹や腫れ、しこりとして表現されることも多い。

 

体表に現れる湿疹なども、単なる皮膚の疾患というだけではなく内臓の疾患の表現として捉えてみて欲しい。

痒みを伴う蕁麻疹や湿疹がではじめたら、掻く前にちょっと我慢して、それがラインのように繋がっているかどうか確かめてみる。掻きはじめてしまうと、湿疹の数も増え掻いたところからラインが無数にできて全体的に盛り上がってしまったりするため、問題ある経絡を特定しづらくなるのだ。

経絡のライン上に湿疹が出ているのを発見できたら、その経絡に関係する臓腑こそ治療が必要だとわかってくる。あるいは経絡の異常を整えると、臓腑の疾患も癒えていくのである。

 

自然はいつだって循環輪を形成している。

循環しながら変化することが生命体の基本なのだから、

我らの肉体にも循環するエネルギーの流れがあって不思議はないと思うのだ。

 

人体が有するネットワークシステムである経絡。

目に見えず実態もわかりづらい経絡が、炙り出しの遊びのように時々姿を現すことがある。

 

<後記>

気とか経絡とかはあるのですか?と、今まで何度聞かれたことでしょう。

言葉を尽くして説明しようとしても、これがまた難しいのです。

なんせ、死体を解剖しても気や経絡は見つからない。

西洋医学では、身体は臓器や器官の集合体であり、徹底した分業システムで成り立っているとみるので、死亡した身体を解剖して分析します。ゆえに生命力を失った死体と向き合う解剖学をベースに発展してきたのだと思います。

一方東洋医学は、気こそすべての始まりであるのですから、観察対象は生きている人間です。臓器や器官は解剖学的部分であると同時に、気の器であり場でもある。そして身体それ自体が内部に有機的繋がりを持つ場となるのです。

見つめるべきは死体か生身の人間か?そもそも出発点に大きな隔たりがあるものを、どちらかのモノサシで測ること自体に無理があるのではないでしょうか。

また気や経絡が物質として科学的に解明されたり、〇〇波や〇〇線に還元できると証明されたところで、それが全体像を網羅するかどうかも疑問となるわけです。

 

あるやなしやと考えても全くもって不毛だなぁとガックリしながらも、

私が日々の施術の中で実感している経絡というネットワークの面白さを、なんとかわかってもらうことはできないものかと時々考えていました。

経絡の流れを整えることで癒えていく身体を確認するごとに。

あるいは実際に皮膚に炙り出された経絡のラインを見る度に。

 

身体には、こんなネットワークシステムが実は隠されているんだよ!とお伝えできたら、嬉しいです。

 

 

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 滲(にじ)んでしまった写真、サンフランシスコ市庁舎を撮影

(今回の症例は患者さんの承認を得て掲載)

 

気については、こちらも。

garaando.hatenablog.com