“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

身体感覚を開く 皮膚

私の好きな映画のひとつに、個性派女優ウーピー・ゴールドバーグ主演の「天使にラブソングを」のコメディ作品がある。この映画の中で修道女になりすました彼女が、爪をたてて黒板を引っ掻き、その強烈な不快音によって騒がしい生徒達を黙らせるシーンが冒頭にある。私はこの時の鋭く耳障りな音を聴く度に、とたんに鳥肌がたち背筋がゾワゾワっとする。まるでこの不快音を、身体全体をあまねく覆う皮膚が認識し、反応しているかのように感じるのだ。

そして思う。

 

はたして音は、耳という感覚器を通じて脳で反応しているだけなのだろうか。

このゾワゾワ感はなんなの??

 

マジックで字を書く時のキュキュという音、ガラスをひっかく音、発泡スチロールの擦れあう音。。こういった音を想像しただけでなんとも不快な身体感覚を味わう方も多いと思う。

 

今回は、人間の五感(視・聴・嗅・味・触)の中で、触覚の感覚器官でもある皮膚について考えてみたい。

 

皮膚は「第2の脳」とも「第3の脳」とも言われはじめた(注:「第2の脳」を消化器とする説も多い)。これは、脳との関係性に着目して皮膚の働きを探っていくと新たな可能性が見えてきたからだ。

 

そもそも発生学(多細胞生物が受精卵から生体になるまでの過程を研究する学問)の視点からみると、皮膚は脳と同じ外胚葉由来だ。

外胚葉から分化するものとしては、皮膚(表皮・毛・爪・皮膚腺を含む)、脳(脊髄・末梢神経を含む)、そして感覚器(視・聴・平衡・味・嗅覚器)があげられる。つまり、皮膚と脳(神経)、および感覚器は同根なのである。

 

発生については、こちらも参照 

garaando.hatenablog.com

 

それゆえ、皮膚には脳の働きと似た機能があってもおかしくない。実際に赤ちゃんは生後7、8ケ月まで感覚神経が未分化で、皮膚への刺激で脳が活性化されるため、スキンシップが重要となるのだ。

そもそも人間には、多細胞生物になるまでに、アメーバに代表される単細胞生物が合わさって進化してきたという長い歴史がある。

このような単細胞生物は、皮膚(外膜)が生命体としてのかなりの機能を担っていたのではないだろうか。視・聴・嗅・触といった外界からの刺激に対する反応器官も未分化のままに、皮膚とおぼしき膜(マク)が一切を引き受けていたに違いない。

 

さて、ここで人体の皮膚の機能について考えてみる。

皮膚は自らを個体ならしめ、外界との境界を作る役割がある。自己の境界を明確にした上で、生命体として己の内部を守らなくてはならない。つまり防衛機能が、皮膚の役割として最も重要となる。こうして内部から外部への体液の流失を防ぎ、外界からの刺激に対してバリアを張ってコントロールする。

 

また防衛するためには、外界からの刺激に対して敏感でなくてはならない。そこで感覚機能も重要になる。この感覚は皮膚感覚とも言われ、触覚、痛覚、温冷感覚など皮膚にある受容体によって知覚される。

こうして外界が暑すぎる時は発汗して体温を下げたり、水分量を調節をしたり、寒さを感じる時にはブルブル震えて熱をうみ出したり、体内を調節するセンサーの仕事をしながら外敵に対して防衛する。

 

さらに、皮膚には色を識別する能力があることがわかってきた。

つまり目をつぶったまま色紙を手で触り、その色を当てることができるのだという。実際に私は脳認知学者のワークショップで、視覚障害がある方達が手で紙を触っただけで、いとも簡単に色を識別する場面を見せてもらったことがある。

 

これはエスパーみたいな怪しい話に聞こえるかもしれないので、もう少し身近な例で考えてみたい。ちょっと自分の好んで着る洋服の色を思い浮かべて欲しい。

暖色系を好み赤やオレンジ系の洋服が多い人や寒色系が好きでブルーや黒の洋服しか持たない人もいる。自分があまり着なれない色の洋服を着た時に、なんとなくソワソワとして落ち着かない経験はないだろうか。

これは人体のエネルギー体とも絡む話なのであるが、皮膚が持つ色の知覚機能とも関連している。

  

さらに! 

子供は頭を撫でられたり、抱っこされたりすると安心する。

またある空間にいるだけで心地よく感じることもあれば、悪寒がしてムシズが走ることも身の毛がよだつ時もある。

直接的に触れ合うのであれ、雰囲気を感じるのであれ、肌感覚から喜びや不安、恐怖などの感情が引き起こされる。つまり、皮膚は感情とも深い関連があるのだ。

加えて、皮膚にはセロトニンドーパミン、そしてアドレナリンといった脳内物質を受け取る受容体も備わっているため、幸福感や快感、高揚感といった感覚も生まれる。

なんとなく肌が合うというのが人間関係の相性を見るのに役立つのは、身体感覚に基づいていて感情にも訴えるからなのだ。

 

このように私たちは、計りしれないほどの膨大な情報を皮膚から受け取っている。

 

ならば。。

さあ、感受せよ!

言葉にならない感覚を。

意識せよ!

目にはみえぬ変化を。

 

身体の声を聴くとか、

身体感覚を開くということは、

こうした訓練を積み重ねていくプロセスのことなのだ。

 

 

(後記)

今回は、身体のエネルギー体(注:身体には肉体の他にエーテル体、アストラル体、メンタル体などと呼ばれるエネルギーの身体をいくつもまとっています。いわゆるオーラというのはこれらの総称)とも絡む内容を、皮膚の機能に焦点をしぼって書いてみました。

 

以前、マヤ文明のシャーマンのガイドでメキシコを旅したことがあります。その彼が天から降りてくる情報をキャッチする時、決まって彼の腕はgoosebumps(鳥肌)になっていたのです。

 

シャーマンは、肌でも受信するんだ。。。

 

私は、毎日患者さん達の肌を診ながら治療をさせていただいており、皮膚についてはいろいろと思うところも多いのですが、このシャーマンの鳥肌はとても印象に残りました。

そしてさらに皮膚の持つ可能性を感じたのです。

 

私も自らのアンテナに磨きをかけるべく、 

雪色に染まる原っぱに立った時、

新緑が眩しい森の道端で、

あるいは緊急事態宣言中で誰もいない飲み屋街のネオンの下、

 

私をとりまく世界の色やテクスチャを

皮膚でキャッチしようと

仁王立ちになって

一人そっと目を閉じてみます。


 

f:id:garaando:20210125232246j:plain

 東京阿佐谷にて撮影