ファンというのは、なんてありがたいのだろう。
患者さん達の話をきく度に、こう思ってきた。そしてその熱狂ブリは、いつも私を幸せにさせてくれる。
モータースポーツの F1世界選手権を欧州へ観にいくためだけに働いている気がする。
羽生結弦選手(ゆず君)を追っかけて海外への応援にもできるだけいく。
東方神起のコンサートでは、どしゃぶりの雨にずぶ濡れになり凍えながらも、同じ苦しみを分け合った忘れえぬ体験だ。
布施明のファンクラブに入っていて、長年アキラをこよなく愛してきた。たとえ森川由加里と結婚しようとも、その愛は変わらない。とかとか。。
先日も若手俳優のファンの方と、こんな会話になった。
「彼がTwitterで最近ウイスキーを好きになったとつぶやいたとたん、プレゼントが殺到した。画像でどんなウイスキーが贈られているのか調べてみると、なんと12万円もするのがあったのよ。」
「じゅ、じゅ、じゅうにまん?!そ、それは?」
「サントリーの山崎ですよ、ヤ・マ・ザ・キ!」
12万のウイスキーをプレゼントかぁ。。しかもまたしてもヤマザキ!
実は、私とヤマザキとの間には数十年前からの因縁がある・・と勝手に思っている。
皆さまは覚えていらっしゃるだろうか。
1990年代日本のバブルが崩壊した後の話だ。
テレビCMに流れた、心に染みわたらせるかのように男性の声で厳(おごそ)かに語られた、あの秀逸なコピー、
「何も足さない、何も引かない」を。
ちょうどその頃、私は自らの座右の銘を考えあぐねた末に決定したばかりだった。
「押してもダメなら引いてみな」に。
TVから流れくるCMで、そのキャッチーなコピーをはじめて聞いた時の私の気持ちは、今もはっきりと覚えている。
「強気だな、ヤマザキ・・」
押したり引いたりしている風見鳥のような私と、足しも引きもしない泰然自若なヤマザキ。
その頃から私は、こそっとヤマザキの強気に注目していたのだ。
そして近年、東京と小樽との2拠点生活をしている私は、自らの不甲斐なさを痛感することが何度もあり、密かに我が座右の銘を変更しようかとさえ考えていた。
2拠点を往来する生活は、移動が多い。
移動時間中に、せっかく5時間も6時間もあるのだから、あの本読もう〜!
いやいやあの本ではなくて、こっちの本の気分かもしれない。文庫だからちょっこっと忍ばせて、これも入れておこう!だって、5、6時間もあるのだよ。
と毎度2、3冊の本を携帯し、キャリーケースにもいろいろな資料を詰めて、ずっしり重くなってしまった荷物を恨めしく思いながらも出発する。
なのに電車に揺られるや早々に眠りに落ちる。飛行機の中でこそ悠々と過ごせるに違いないと思っているのだが、読んでいた本が手からすり抜けるほどに爆睡してしまう。
結局、1冊の本も読めずに呆気なく目的地に到着する。
帰る時も、今度こそ5時間も6時間もあるのだよ!と思って、同じように2、3冊の本を携帯して荷物を担ぐ。行きは失敗したけど、帰りはきっとうまくやれるに違いない。
しかし。。またしても寝落ちして、いつしか目的地に到着している。
1ページたりとも目も通さなかった本やら資料やらを荷物から取り出す時の、あの気持ち。
ガックリきますよ、自分に。こんなはずじゃなかった。
いったい何度繰り返したことだろう。
自分を知らない自分に呆れはてて、押してもダメなら引いてみな!とばかり、1冊も携えずに出発したこともある。するとこういう時だけ、なぜかスッキリと頭は冴えわたり、手持ち無沙汰この上なし。なんて天邪鬼なのでしょうね・・。
そんなわけで、荷造りするたびに重い気持ちになる。
押すのか?引くのか?と迷う優柔不断な自分に・・。押しても引いてもダメなのかと弱気な自分に・・。
ああ!もっと決断力のある揺るぎない自分になりたい!
そんなわけで、
自己価値のある、迷いのない態度に実は憧れてもいたのだと気がついた。
そしてマウント感満載の態度をほこるヤマザキをググってみる。
するとヤマザキには、12万で驚くなかれ、24万、165万、220万、そしてな・な・なんと5700万のモノ(送料無料、木箱付き)があった。イチ・ジュウ・ヒャク・セン・マン・ジュウマン・・・と何度数えても、5700万。
いくらなんでも、どうなんだろう?? ウイスキー一本こっきり(700ml)に人生を丸ごと賭けるような、この値段。。
どう思われますか?みなさま!
ま、趣味人というかファンというかマニアとかいわれる人とっては、こだわるモノに対してはプライスレスになるのだね。でもこんなことを知ってしまったら、12万円のウイスキーがいきなり安く思えてきた。
安いじゃないか!12万!
ここに至り、相対の世界が見えてきた。
12万円のヤマザキは高いか?安いか?実はこの命題は成り立たない。
今の私にとっての、このウイスキーにかける12万円は、安いのか高いのか?となるのだ。
私のようなシモジモの者にとってはやっぱり高いが、帝国ホテルのバーなんかで毎晩飲んでいる方達にとっては安いのだろう。なんせ世界は広いのだ。
仮にそんな人が事業に失敗して借金まみれになったりしたら、12万のウイスキーなど高嶺の花となるかもしれない。
つまりヤマザキの12万円が安いか高いかは、その人の人生観により時期により状況により、その判断は変わるのだ。
またアメリカは西か東か?この命題も成り立たない。日本から見て東であるが、欧州から見て西だからである。
安価と高価、東と西、南と北、上と下、右と左、善と悪、吉と凶、さらには生と死でさえも
およそ二項対立する概念は、
それぞれを比較した上で分析することはできるが、一方だけを取り出すことはできない。
ある局面での分析が別の視点に立ってなされる時、
その二項対立する概念の意味は、反転してしまうことも多い。
この世は相対の世界。
どこに視点を置くかによって双極が入れ替わり、
見方によって世界が変わるのだ。
(ま、そうは言っても12万のヤマザキを一瞬安く感じた感覚は、正気に戻るとマタタクマに消え去りました・・。)
<陰陽論の解説>
古代中国思想の構成要素である陰陽論。これは陰陽という自然界の運動と変化をつかさどる基本原則であり、あらゆる日常の栄枯盛衰の自然摂理を説いている。
陰陽論というと、とかく陰と陽とに対立要素として分類することに重きが置かれている感じがする。しかし陰陽論には、その他にも重要な本質がいくつかあり、そのひとつが相対の世界を表現していることだ。
陰陽論については、こちらを参照。
(後記)
今回は、身近なところの相対の世界を書いてみました。
実は私たちは、見方によって変化する不確かな世界に住んでいるのだと思います。
だからこそ、ファンの人たちが放つ
揺るぎない情熱に
その無償の愛に
好きという絶対的な確信に
私は生への歓喜を感じるのだと思います。
ファンって、本当に素敵ですね!これからもその熱狂を応援していきたいです。
小樽、 精霊たちのいる森にて撮影。
なお文中の会話については患者さんの了承を得て掲載。
わが座右の銘については、こちらも。