“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

身体感覚を開く2 響(ひび)き

私が初めて印象派の画家クロード・モネの睡蓮を間近に見たのは、午後の日差しが心地よい、晴れわたった秋の日だった。そこはニューヨーク近代美術館、通称MoMA

話は、20年以上前にさかのぼる。当時の私は、通っていたアメリカのヒーリングスクールの授業を終えて、開放感いっぱいでMoMAに向かった。

 

正直、それほど美術とか絵画に興味があったわけではない。もっと正確にいうと、有名な絵とか見ても「ふ〜ん、なるほどね(何がなるほどなのか全くわからないが)」というくらいだったのだ。

 

その私が、モネの睡蓮が展示されているホールに足を踏み入れると、その絵画の大きさの持つ迫力に驚いた。デカい!とにかくデカい!!

 

そして大柄の人間五人が大の字になっても仰向けで眠れるような、黒いシンプルなソファが作品の真向かいにドドーッンと置かれていた。

私はそこに座って、友人との待ち合わせ時間まで暇を潰すことにした。無駄に大きい低めのソファに座りながら、なんという巨大な作品なんだろう!と思いつつ。。

 

ジッとというよりも眺めるような感じでボンヤリと絵を見ていたら、絵の中の蓮が動き出した。いや、動き出した気がしたのだろう。そして飛び出す絵本のような感じで、ある部分が大きく見えたり他の部分が小さく見えたりしはじめた。

私はその絵の中の、たゆたうような世界に取り込まれると、まるで船酔いをしたかのようにボヤボヤとした体感を覚え、目がまわりだした。私は身体を支えることができずに片肘をつき、次に頭からうっ伏して、とうとう座っていたソファに天井を向いて倒れた。

 

パスポートやトラベラーズチェックといった貴重品を持っているのに、なぜにこんなところで無防備に寝てしまうのか・・おいおい私!!

そう思いつつもそこからたぶん10分くらいは意識混濁。混じりあう意識の中で、このソファは私のような人のためにあったのだと妙に納得したことを覚えている。

 

あの経験から私の絵を観る感覚は変わったのだと思う。

少し離れてボンヤリ観るようになった。そして自分の内部で起こってくる体感をみつめるようになった。

 

あえて言葉にするなら、響(ひび)きのようなものを察知するために耳をすます感じ。

 

そう、たぶん響き。。

 

たとえば境内の鐘がゴーンと厳かに鳴ったとする。

その音は大気を伝わって、定量化できない響きとなる。

リズムでもない、拍ではない音が、その響きを包みこむほどの間(マ)の中に拡散されて、私の身体の中にも振動となって届く、あの響き。

 

音楽でも(メロディのない単音であったとしても)、映像でも、言葉でも、音のない絵画でも文字でも、そのものが発する響きが伝わってはじめて、作品と自分との間に関係が生まれ、私の内部で何かが始まる。

 

こんな風に考えていると、ふと私の愛する鍼(ハリ)のことが頭に浮かんだ。

そうだった!鍼が持つ人体に与える独特の感覚は、響きとよばれるのだ。

鍼を身体に打つ。するとその打った所から関係のないように思えるような遠い場所、そんな場所に刺激を感知する、" 響く" としか言いようのない感覚。

さらにズーンとくる、あるいはジワッとするといった、鍼だけが伝えることのできる、ピンポイントを抑えながらも周りに拡がる、あの感覚のことだ。

 

鍼灸学校時代、クラスメイトが名人と噂された先生に質問したことがあった。

「鍼が上手くなるために最もすべきことは何ですか?」

その先生は答えた。「本物の芸術に触れなさい」

私はこの言葉が忘れられず、自らの治療所の名前をアーツと名づけたのだ。

 

鍼と芸術。

ともに響きとなって体感するという点において、

私の中でこの両者が繋がりあった。

 

(後記)

先日、ライアーという楽器を使って治療なさる方が、私の背中で音を奏でてくださいました。その時、弦が弾かれる音とともに振動となった響きは、私の体内の奥深くをめぐりました。

音や波動の治療効果も面白いなぁと思って、しまってあったチベタンボールを鳴らして空間に響かせたり、音叉やトーニングといった音を使っての治療方法を自分に試して遊んでいるうちに、モネの睡蓮を見た時の体感が蘇ってきたのです。

 

悲しいことにTVなどからは、1ミリも響かない政治家たちの言葉が聞こえてきます。

見事なまでに、およそ響かない。人との会話、コミュニケーションがこんなにも響き合わない世界に未来はあるのだろうかと思ってしまいます。

 

悲しいことであれ、嬉しいことであれ、その響きを感じてみたい。 

こう、私は思っているのですね。

 

我が人生に響きあれ!

 

私と同じように望む方がいたとして、まだ鍼を体験したことがないのであれば、鍼治療オススメしちゃいます。(あ、治療家は私じゃなくとも!)

  

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紅海に面するエリトリアの都市、マッサワにて撮影。 

(戦争の傷跡が色濃く残る都市、マッサワ。マッサワの凪(ナギ)のように穏やかな海と戦禍ですっかり荒れはてた街。廃墟に漂う寂寥と時が止まったかのような空気感が、当時の私に随分と響きました。)

 

 

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