“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

東洋医学各論13  五行からみる食養生と薬膳

色彩豊かな秋が深まって冬に向かっていくと、外界の景色は次第に色褪せていく。こんな季節にあって、橙色に輝く柿を見かけるとなんとなく嬉しい。枯れていく風景の中で力ある暖色系のオレンジ色は、元気を与えてくれる。

秋はやっぱり柿でしょ!

柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺、でしょ!?

 

というわけで、今回は季節と食べ物、そしてそれらと身体との関係性を東洋思想の五行という概念を用いて説明し、東洋医学の「医食同源」「薬食同源」について考えてみたい。

 

五行についてはこちらを参照。

garaando.hatenablog.com

 

医食同源」とは、医療と食事のどちらも生命を維持し健康を保つために大事であり、オオモトは同じとする考え方。バランスの取れた食事は病気の予防や治療に欠かせない。食事の恩恵を得て積極的に体調を整えようとするのが食養生だ。

さらに食べ物には身体の不調を治す薬効があり、薬と食事もモトは同じとするのが「薬食同源」。この薬効を十分に活かし、体調の改善をめざす食事を薬膳という。

 

古代中国の伝説上の人物に「神農(しんのう)」と呼ばれる、農耕と医薬の神様がいる。この神農が書いたとされる中国最古の薬学書「神農本草経(しんのうほんぞうきょう):前漢末〜後漢中期」には、365種の植物などについての薬効が書かれ、食べ物を3つ(上品じょうほん、中品ちゅうほん、下品げほん)に分類している。

上品:身体を丈夫にする日常的に用いられる無害の食品。石薬(せきやく)と呼ばれるミネラルや、ハトムギ、ゴマ、ミカン、クコ、ナツメ、人参など。

中品:滋養強壮、虚弱体質の改善や養生に用いるもので、上品よりも少し副作用の可能性があるもの。クズ、ホオズキ、マオウ、センキュウ、ウメ、トウキ、クチナシなど。

下品:毒にも薬にもなる薬性を持ち、病気の治療のため短期的に用いるもの。トリカブトケイトウレンギョウ、ダイオウなど。

また古くは皇帝の食事を管理する「食医(しょくい)」は、「疾医(しつい:内科医)」や「瘍医(ようい:外科医)」より重要視されていたほど、病気の治療や健康な身体づくりに食事が重要とされてきた。

 

では一般に漢方的な食事療法と言われるものは、どんなものなのだろう。

まずは食物の性質を知ることからはじまる。基本は以下の2点。

 

まず1点目。その食物は身体を冷やすのか、温めるのか、それともどちらでもないのかと考えてみる。

これらは、程度により以下のように分類される。

 (冷)→  (やや冷)→   (どちらでもない) ← (やや温)←  (温)

実際には、ざっくり身体を冷やすか温めるかで食品を選ぶと良い。夏野菜であるきゅうりやトウガンには身体を冷やしたり潤したり排毒するといった効果がある。生姜やニンニクは身体を温め、代謝を促進する。冷やす食物には消炎・鎮静作用があるため高血圧やのぼせなどに向き、温める食物には代謝をアップさせる作用があるので、冷え性や貧血に良いとされる。

ただし同じ食材であっても調理法によって、この性質は変化する。たとえば大根。大根は 寒 の性質で身体を冷やすが、煮ると 平 へと変化し生姜を加えると となる。

単一の食材の性質を見極め、あるいは他の食材と合わさったり、料理方法によって変化する性質を踏まえた上で、今の自分には温める食事が適切なのか冷やす方が好ましいのかを選ぶのだ。

 

次に2点目。その食べ物はどんな味がするのだろうかと考えてみる。

酸っぱいのか、苦いのか、甘いのか、辛いのか、鹹(塩辛い)のか。これらの味は五味と言われ(陰陽五行論五行による分類:下表参照)、それぞれの味は特有の五臓六腑へ影響を与える。酸味は肝と胆の、苦味は心と小腸の、甘味は脾と胃の、辛味を肺と大腸の、塩辛いは腎と膀胱の、それぞれの働きを助けるとされている。

    <五行による関連性>

五行 | 木  火  土  金  水   

五味 | 酸  苦  甘  辛  鹹   

五臓 | 肝  心  脾  肺  腎   

五腑 | 胆   小腸   胃  大腸  膀胱 

さて味はどのように身体へ作用するのだろうか。

味:梅やレモンに代表される酸味は、筋肉を引き締め身体を活性化する。汗や尿、鼻水など排出量を抑える働きがあるため、多汗、下痢、頻尿、鼻水が止まらない時に効果を発揮。取りすぎると、身体が硬くなる。

味:ゴーヤや苦瓜といった夏野菜に多く含まれる苦味は、体内の余分な熱や水分を排出し、消炎する作用がある。便秘や胃もたれに効果的。取りすぎると、肌が乾燥し冷える。

味:人参やカボチャに代表される甘味は、緊張を緩める作用があるので、痛みを和らげる。体力不足を補い、滋養強壮にも役立つ。疲労回復、胃の痛みに有効。取りすぎると、骨が脆くなる。

味:唐辛子や生姜などに含まれる辛味は、気血(きけつ)の巡りをよくし、体温をあげる。発汗・発散作用があるので、風邪の初期症状に有効となる。興奮しやすくなる傾向がある。また取りすぎると、あるいは自分の体質に合わないと冷えるので要注意。

味:塩辛い味のこと。醤油や塩、牡蠣など代表される塩味には、固まりをほぐす作用あり。便秘や首・肩の凝りに効果あり。取りすぎると、血がドロドロになり高血圧になる。

 

このようにその食物が身体を温めるか冷やすかという視点と五味の視点から食物をとらえることが食養生や薬膳の基本となるのである。

 

また「身土不二」と言われるように、

身体(身)と環境(土)は、分かつことができないほど密接な関係がある。

ここでいう環境(土)には、食物はもとより、自らが暮らす土地の気候や風土、さらに季節の変化が含まれている。

五行の観点から、季節と食材との関連性を探ってみたい。

五行 | 木  火  土  金  水   

五季 | 春  夏   土用   秋  冬  

五気 | 風  暑  湿   燥    寒  

は、春一番といった突 風 が吹き、木の芽が伸びて、のびやかに広がるエネルギーが満ちてくるため、体内も気の流れを良くする食べ物が良い。香菜、セロリ、春キャベツなど。

は、暑 さが旺盛となってくるので、熱を冷まして夏バテを防止する食べ物が必要となる。きゅうり、トマト、苦瓜など。ただし、熱を冷ますために、冷たい飲み物や生のものをとりすぎると胃腸が冷えてしまい、消化吸収できずに夏バテ悪化となるので要注意。

土用とは、立春立夏立秋立冬の前の18日間をいい、次の季節へ移る変わり目の期間をいう。特に養生が必要な期間であり、湿 度も高い時期である夏土用のウナギは有名。

は、徐々に寒くなり、空気が乾 燥 しはじめる季節となる。この季節に実る梨、柿、ブドウといった果物は、乾燥を補う。また滋養にとんだ長芋もこの季節が旬。

は、寒 さが厳しいので、身体を温める食材を。鳥肉、にら、生姜など。

 

その土地で自然にできた食物をその時々に食べること。

ただそれだけで自らの身体への恩恵を受けられるのだ。

このことは、

私たちが自然との関係性の中で生かされているということに他ならない。

 

自分をとりまく自然の中に自らの身体があり、

自分と自然との様々な関係性の中のひとつが食物である。

さらにその食物のひとつひとつにエネルギーがあり、

それらが調理方法や組み合わせによっていろいろな味となり、作用となって、

我らの五臓六腑に、筋肉や器官に、さらには感情にまで影響を与えているのである。

 

(後記)

ローフード(生食)がブームだった頃、徹底したローフードで身体が冷えきってさまざまな症状が出ている患者さんを何人か診せていただいたことがあります。それはそれは、季節も自分の体質も無視した徹底したローフードでした。

(注:ローフードとはRAW(生) FOOD(食)のことで、火を通さない食事のこと。美容や健康、ダイエットにも効果ありとされ、ビタミン、ミネラル、酵素などが効率的に摂取できるとされる)

その時に私は、情報によって食べる、あるいは単一の基準にのみに従って食べる、といったことの弊害について考えました。

 

現代栄養学では、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルといった栄養素とカロリー計算によるエネルギー量を中心に食品を分析しています。このため塩分を制限し、栄養素のバランスを考え、カロリー計算することによって食事を管理します。さらにオーソモレキュラー療法といった細胞レベルの栄養を扱う分子栄養学なども盛んになってきました。

しかし、コエンザイムQ10α-リポ酸、最近では若返り成分NMN(ニコチンアミド・モノ・ヌクレオチド)といった成分が次々と注目されるように、食品やその効能については未知のことも多く、更なる成分がこれからも発見されていくように思います。

漢方の食養生においては、食品を栄養素によって分析する手法は取りません。人類の歴史や文化の中で育まれてきた食物の効用を、それぞれの体質や症状によって、また移り変わる季節に応じて、受け取っているのです。

 

また私は、厳密なマクロビオティックを信仰しているお母さんのお子さん達にも出会いました。彼らは、甘い物を禁じられて育てられたお子さん達でした。

砂糖は確かに毒なのかもしれません。

ただ子供は甘さが大好きです。

くりかえし甘さを感じることによって幸せの感覚を追体験しているようにも感じます。

あまりに厳格に甘さを禁じられて育つお子さんは、

なんとなく感情の発達が乏しく、安心感などが希薄な気がします。

味覚による感情の発達への影響もあるのではないかと想像します。

 

自分には、どんな食べ物が基本的に向いているのか。

どんな偏食傾向(激辛好き、甘々好きなど)があり、それは何か感情と結びついていないだろうか。

自分を探るツールとしても、食事に目を向けることは面白いと思っています。

 

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トルコ、イスタンブールのエジプシャンバザール(スパイスマーケット)にて撮影