“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

身体感覚を開く4 変化

時代は、そのスピードをあげて進みだした。こう感じている私に、会社を経営している患者さんは、ふとおっしゃった。

「組織は時代の流れについていけない。時代はいつも、思う以上に変化している。」

さらに「大きな組織になればなるほど、それを維持していくためにエネルギーを使う。こうして安定を求めていると、気づいてみたら時代はずっと先に進んでいるんだ。時代にだけは勝てない」と。

この話から2つのことがわかる。

1つは、時代が変わっていくスピードは、実は予想以上に速い。

2つめは、組織は大きくなればなるほど安定・維持に努めなければならず、そのうちに時代から取り残されてしまう。

ありきたりの毎日を積み重ねているうちに、いつの間にかコトが進んでいる。これは、組織に限らず、人体についてもいえるのではないだろうか。

健康な身体とは、外界の変化に臨機応変に対処し、かつ適切な新陳代謝がなされてはじめて維持できるものだと思うから。

 

今回は、身体の変化に焦点を当てて、うつり変わるということについて考えてみたい。

 

万物は絶えまなく変わり、流れつづけている。この東洋思想の基本概念を礎(いしづえ)にして東洋医学がある。

そして我らの日常は、この万物の変化と呼応して成り立っている。しかし、このことを実感できる機会は少ないように思う。

 

私は、痛みや痺れといったハッキリとした症状を突然訴える患者さんに接すると、何か変わったことがありましたか?と聞く。長年にわたりおつき合いしている患者さん達は、思いあたることを話してくださる方も多い。その一方で、「何も変わったこともしていないし、いつもとおんなじ!」と答える方も相当数いらっしゃる。

 

いつもとおんなじ!何も変わっていない。

 

こう聞いて、「あなたの身体の細胞の相当数は昨日すでに死んでしまい、新たにドンドコ生まれ変わっているのですよ」とか、

浮腫んでいる身体を見て、「低気圧になったから身体を圧迫する大気の力が弱くなって、私たちは膨張する。もったりと重くだるいのですよ。それだけ外界の影響が身体に日々反映されるわけだから、天気が毎日違うように、いつもと同じってあり得ないのですよ」といったフレーズが頭に浮かぶが、そこはできる限りグッとこらえる。ググッとね!

 

常に移り変わる世界のただ中にあって、人は自分の意志だけではどうしようもできない影響を受けて、生かされている。

このことを少しでも体感できるようになっていただくことが私の仕事の最も大事なことのひとつだと、私は思っているのだ。

いつもと同じ毎日はない。小さな変化に気づくことが健康へと向かう最初の一歩なのだと伝えたい。

 

では、どうしたらいいのだろう。

まずは徹底的に緩んだ身体を味わっていただき、感覚をバージョンアップさせることができたらと願う。

 

施術後に、なんか楽になったとか、よくわからないけどダラ〜ンとしてると実感してもらえたら嬉しい。

呼吸がいつもと違うとか、なんだこの身体のズドンとしたダルさは!も、なんでもアリで。

これを繰り返していると、知らず知らずに緊張している時に、あれ?いま相当チカラ入っているなと気づきはじめるかもしれない。

こうして自分と身体との親和性を高めるのだ。

 

このように親和性が高まっていくと、どんなことが起こるのか。

最もありがたいのは、断薬や減薬が成功しやすいということだ。

効いているのだか?いないのだか?なんだかわからないけど、出されたから薬を飲む。こういう状態から、「なるほどこの薬を飲むと尿がいっぱい出るなぁ」とか「おや頭がぼんやりするぞ」などと、より意識しやすくなる。

こうして自らの身体を実感しつつ、今までの生活習慣を変えながら、数十名の患者さん達は大量の薬を断つことができた(注:この中には、難病の方達もメンタルの病の方達も含まれる。山ほどの薬を飲み続け、肝臓や腎臓の値が悪くなると、半年間にわたって減薬するということをくり返す。本人達が生活を変えつつ、薬を減らしたいとの希望から数年をかけて断薬や減薬に成功した例である)。

また身体感覚がバージョンアップされた方達の、健康になっていく速度には、かなり目覚ましいものがある。そしてそれは身体の変化のみならず、転職や移住といった人生の大きな決断に至ることもあった。

その一方で薬をやめたいと訴えつつも、その効能や副作用を体感できない方は、薬から離れることがなかなか難しいように思う。

 

彼らを観察していて思う。

根拠とは、実感に他ならないのだ。

数値でも見える化されたデータでもなく。

 

こうして身体感覚が目覚めていくと、自分のまわりとの関係性を改めて意識できるようになる。

こうした関係性を見つめなおすことができれば、予想以上に速いであろう、外界から押しよせる諸々の変化に、少しは迅速に対応できるのかもしれない。

どんなに抗っても時代の大きなウネリには勝てないのだとしても。

 

実感できる能力を高めることができたら、

変わりゆく流れの中で、自ずと自分も変化する。

 

これからの時代を考える時、

変化の波に押しつぶされないために、

実感力をアップする。

そして

フットワークはできるだけ軽い方がいいのだと思う。

 

(後記)

世界中を自分の庭のように旅する添乗員の友人達は、5年以上前から私に言っていました。

「ヨーロッパやアメリカ、そのどこへ行ってもランチにかかる費用は2000円以上。日本だけだよ、探せばワンコインの500円ですませられるのは。何かがおかしいよ、この国」と。

へえ〜っと思って聞いていた私ですが、ランチは安いし、100均もある。結構暮らしやすいのかも?と安住していた気がします。物価高になってはじめて、大変な時代がやっぱり来ていたのだなぁと実感できるようになりました。

 

私自身、顔にできたシワやシミは気になるのに、コリ固まった思い込みには、なかなか気づきません。時は流れているというのに。

この記事を書きながら、いろいろ探ってみる余地ありだなぁと思っています。

 

いつの間にか姿を消したお札たちを撮影。珍しくなってしまったお札を惜しげなく差し出してくださる患者さん達に感謝をこめて。

なお、冒頭の患者さんの言葉は了承を得て掲載。