“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

東洋医学各論16 痛み

 この痛みさえなくなるなら、他は何も望まない・・。痛みを伴う病気で苦しまれた方の多くは、このように思われた経験があるのではないだろうか。それほどに痛みは、苦しみを与え不安をあおり前向きに考えることを難しくする。

 

 「なんで痛むの」「どうやったら良くなるの」「本当に治るの」「いったい私はどうなるの」。こう、思い悩んでも自分ではどうにもできない。そして病院へ行き、病名を告げられて治療がはじまる。

 激しい痛みがある病気としては、四十肩・五十肩、ぎっくり腰、ヘルニア、坐骨神経痛、脊柱管狭窄症、股関節痛、膝関節症などの整形外科的なもの、リウマチ、帯状疱疹といった全身におよぶもの、頭痛、痛風や尿路結石など体質に関するもの、そして怪我や火傷などの限られた部位に起こるものなどがある。

 

 さて今回はこれら痛みの原因と治療方法を東洋医学の観点で見てみたい(以下、太字は東洋医学用語)。

 東洋医学において痛みは、気血(きけつ:エネルギーと血液)の流れが停滞しているために起こるとされている。あるいは気血の不足が原因だという。この気血がとおる道が東洋医学でいうところの経絡(けいらく)だ。つまり痛みは、経絡の上で気血がつまっていて、流れが悪いということが原因とされる。

<補足:経絡経脈(けいみゃく)と絡脈(らくみゃく)とが合わさった名称で、人体の縦のラインで太い流れを経脈といい、経脈から枝分かれした横をつなぐ細い流れを絡脈という。経絡は、気血が流れることにより、臓器と臓腑、さらに器官や皮膚といった全身をつなぐネットワークを作っている。経脈の流れが悪いと痛みが、絡脈の場合にはシビレが起こるとされている。この痛みとシビレを合わせて中医学では「痹症(ひしょう)」という。この「痹(ひ)」とは、つまって通じないという意味。>

 

 裏をかえせば、適切な量の気血がスムーズに経絡上を流れていれば、痛みやシビレはおこらないことになる。

 ではどうして気血の流れが阻害されるのだろう。

 ここでは急性の痛みにおける外的要因についてのみ話してみたい(注:外的要因の他に体質などによる内的要因もある)。

 痛みに関する外的要因は、風、寒、湿、熱(火と暑を含む)といった自然界の影響があげられる。この4種それぞれの持つ (じゃ)によって痛みは起こる(注:邪とは 気 の性質をさし、ヨコシマな気である邪気 と 真っ当な正気 とに分けられる。ただし邪気は流れさえすれば正気となる)。

風邪(ふうじゃ)の痛み:痛みが随所に移動し場所が特定されず、突発的に発生。例:頭痛

寒邪の痛み:固定痛、冷えると悪化し温めると楽になる。例:腰痛、腹痛、関節痛、頭痛、神経痛

湿邪の痛み:重だるく、締めつけられるような痛み。例:関節痛、頭痛、神経痛

熱邪の痛み:炎症性。赤く腫れあがる。冷やすと楽になる。例:化膿性関節炎

(補足:関節痛や頭痛という症状であっても、原因はそれぞれ違う)

 

 このように風邪、寒邪、湿邪、熱邪といった邪気が体内に入りこむことによって、経絡上の気血の流れが滞り、さまざまな痛みになるのだ。

 ざっくり言ってしまえば、痛みは自然界の変化に対応できずに、体内の気血の流れが滞ることによって起こる。それならば、痛む場所とつながる経絡の流れを整えていけば良い。

 

 赤く腫れあがった炎症性のものは、周りに散らせば痛みは和らぐし、寒くて固まって痛みになっている時は、温めて緩めて周りとのつながりを回復させれば楽になる。

 歴史上の人物である勝海舟が、肩に小刀をツンと立てて血をぬき凝りをやわらげたのも、虫のヒルに血を吸わせるのも、集まりすぎて固まってしまった古い血をぬくことによって、結ぼれをほぐして流れを作ろうとしていると言える。

 また捻挫で赤く腫れあがった炎症がある時は、痛みを抑えるために冷やす。その後熱感がなくなったら温めるのが良い。冷やし続けたなら、その箇所が固まってしまい、なかなか流れを作れない。結局完治までに時間がかかるのだ。

 頭痛も足が冷えている場合が多い。頭にばかり昇ってしまった気血を、足を温めることによって下半身へよびこみ、大きな流れを作る。こうして改善されるケースも多い。

 

 滞らずに周囲と繋がって、流れゆく。

 

 これは体内で起こる痛みだけでなく、メンタルにおいても同様だ。

 他者と繋がることができなかったり、こちらの気持ちが通じずに誤解されると痛みとなる。怒りや悲しみ、あるいはあきらめといった感情に取りつかれてしまったなら、その想いは流れていかず、ずっとそこに止まり続けてしまい、苦痛となる。

 

 通じるということ、繋がるということ、そして流れるということ。

 これらが生命体に与える重要性を、ぜひ試してほしい。もし自らの体内に痛みを感じたなら、それが腰痛でも関節痛でも筋肉痛であったとしても、温めたりマッサージしたりして患部の詰まりを和らげて、その流れ先を作ってみる。

 こうして流れができたなら、きっとその痛みは変わっていくだろう。

 

(後記)

ここ数年では珍しく、今年の秋は長いですね。秋晴れも多く、林の中を歩くのが楽しい。落ち葉は雨露に濡れてシンナリして、そのうちに土へと還る流れに入っていくのでしょう。一陣の風が通り、落ち葉は軽々と飛ばされて空(クウ)を舞う。ふと大きな空を仰ぐと、雲が流れていました。流れが生命体にとってどれほど大事かを思いつつ書いてみました。

 

 

小樽、自宅近くにて撮影