“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

東洋医学各論17 腎3

 いつまでも鮮明に心に残っている言葉がある。あれは、私が鍼治療をはじめて受けた20代半ばの、隠れ家のような小さな治療所での先生が発した力強い一言だった。「あなた、まずは身体よ」。それ以来私は、自分自身に、そして私の患者さん達にも、おりにつけ呪文のように唱えてきた。

 

 ねえ、まずは身体よ!

 

 今回は、その身体を作るキホンのキである 腎 について考えてみたい(太字は東洋医学用語)。

  西洋医学でいう腎臓は実質臓器をさし、泌尿器系と副腎をふくむ内分泌系の働きをになっているとされる。これに対し東洋医学でいうは、自然界の種(タネ)に匹敵するといわれる。植物の種(タネ)にはその生命体のあらゆるポテンシャルが内蔵されているのだから、そら豆のタネの形をした腎臓には、各人の生命力がギュウっと詰まっていることになる。

<補足:東洋医学は東洋哲学をもとに発展。この東洋思想の柱となるものに、天人相応説がある。これは、自然界(ミクロ・大宇宙)の要素はそっくり人体(マクロ・小宇宙)にも当てはまるとされるもの。フラクタル、相似象といった世界観と同義>

 さて腎は、その生命の根源であるタネに匹敵するのだから、成長、発育、生殖、そして老化といった誕生から死にいたるまでの大きな流れ全般に関わっていることになる。このため腎のケアは、養生にとって肝腎カナメとなるのだ。

<補足:東洋医学では腎には腎精(じんせい)という物質が蓄えられているとされる。これは、遺伝的に両親から受け継いだ「先天の精(センテンのセイ)」と飲食物から作り出す「後天の精(コウテンのセイ)」とが合わさってできている。つまり腎を強めるには、腎精を補うことが重要となる>

 

腎精についてはこちらを参照

garaando.hatenablog.com

 

 またタネは芽ぶいて双葉になる。ひとつの葉は を象徴し、もう一方は を示す。陰は水に代表される物質的な力を持ち、陽は火にたとえられる動的なエネルギーを有する。この2つのパワーが備わってはじめて、人体は円滑な生命活動を営むことができる。の持つ力にも陰と陽との2つの要素(腎陰腎陽という)があり、これらがバランスよく活動して、本来の生命力が花開くのである。

 さてここで鍋が火にかかっている状態を想像してほしい。鍋の中にある材料(栄養物やら水分といった物質)が腎陰にあたり、鍋を温める火が腎陽にたとえられる。この鍋の中の材料が少ないのにコンロの火が強すぎて空焚きになっているのが、腎陰が不足している状態である。具体的には、加齢や疲労などで腎陰が不足すると手足がほてり喉が渇く。ひどい場合には微熱が続く。あるいは汗にも悩まされる。顔色は上気して紅潮するといった女性の更年期に似た症状がでる。高齢の方で寝汗がひどく夜中に何度もパジャマを着替えなくてはならないというのも、腎陰不足が原因となるので、腎を補う漢方薬の中でも腎陰を補う薬(補陰薬という)でサポートすることもある。

 これに対して鍋の中に材料はあるのに、火力が弱すぎて鍋の材料に熱が回らない場合がある。これが腎陽が不足している場合だ。具体的な身体症状としては、とにかく冷える。低体温になる。手足、お腹、足腰が冷えて頻尿や排尿困難となり、さまざまな機能低下をまねく。こうして病気が慢性化し生命力が低下してしまう。この腎陽が不足している場合には、火を強くするパワーを補充しなくてはならない。漢方薬を用いる時は、腎陽を補う薬(補陽薬という)を用いて代謝を高め生命活動を活発にする。

 鍋の中にある程度の材料(腎陰)が入っていて、その量に熱がまわるほどの火(腎陽)が灯っている。こうして腎は、その持てる力を発揮するのだ。

 

 では次に老化について具体的に考えてみたい。

 臨床では、耳が遠くなる、目が見えなくなる、骨が脆くなる、認知機能が衰える、髪に艶がなくなり抜けるといった相談が多い。また浮腫みや夜間頻尿、排尿困難といった老化に特有の症状もある。タネである腎は、骨、骨髄、目、耳、脳、髪にも関連が深く、また腎には水分代謝の役割もあることから、これらのさまざまな症状はことごとく腎の機能に関係することになる。

 いやがおうでも刻々とおしよせる老化に向かいうつために、コラーゲンやヒアルロン酸を顔に塗るとか、水素水を飲むとか、カルシウムやサプリを補充するといった方法は、ツケヤキバのごとし。腎陰腎陽のバランスをとりながら、腎精(ジンセイ)といわれる腎に貯蔵されている物質を補うことが何より大事となるのである。

 

 まずは身体でしょ!

 ならば、まず腎をケアしようではないか。

 

(後記)

 ここ数年、年が明けてみると私の予想もしていない疫病や戦争がおこりました。その煽りをうけて私たちの日常も思わぬ変化を強いられています。いつだって絶えまなく移ろいゆく世界の中に私たちはいるのですが、それにしても大きなウネリみたいなものに翻弄されていくような怖さを感じています。

 こんな風になんだか落ち着かないザワザワ感に包まれる時は、まずは身体でしょ!と自分に言いきかせて今までやってきた気がします。そこで、何度かとりあげてきた腎についてですが、改めて書いてみました。

 自分が健康へとつながることで、世界に少しでも暖かさと優しさがもたらされますように。

 

南アフリカ共和国ケープタウンテーブルマウンテンを大西洋から撮影 

東洋医学において、腎の自然界における属性は「水」)

 

腎については、こちらも。

garaando.hatenablog.com