“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

東洋医学各論6 津液(しんえき)

至福の時といえば、みな様にはどんな経験がおありだろうか。

私にとってのそれは、メキシコへ旅した時でのこと。

マングローブの林が生い茂る水面。ひとたび何かを浸してみれば、どんな物でも中身まで透き通ってしまいそうな、そんな限りなく透明な薄いグリーン色の世界。そこでは優しい風が水面を揺らす度に、太陽の光がビーズのような微細な粒となってキラキラと輝いていた。

私はそこに両手両足を伸ばして、仰向けに浮いた。身体の力を抜いて、抵抗をできる限り手放した。ただ風の流れだけに身を任せられるようにと。コゥーッというような大気の、あるいは風の、たちこめるように響いている低い音。木々の擦れ合う音。耳元で聞こえる波の音。水に耳が浸かった時には一瞬にしてモワ〜ンとコモってしまい、スローモーションで聞こえる重い音。天空に響く野鳥たちの鳴き声。これらが混ざり合った様々な音は、耳でキャッチするのと同時に振動となって身体にも響いた。

自然がかもしだす音は、気づいてみれば相当にうるさい。それなのに随分と心地がいいのだ。太陽の熱がやんわりと身体を包みこむ。すり抜ける風の涼しさと水の柔らかさがありがたい。目を閉じてみればマブタの裏が太陽の光で赤く見える。全身で感じることができる陽気に満ちた世界。

重力の楔(クサビ)を解きながら、大自然の中で浮かんでは流され、流されては浮かんでいた。自分がひとつの細胞であり、大きな流れの一滴(ひとしずく)になったような、まさに忘我の体験だった。

 

「身体は水袋なんですよ」ずいぶん昔に太極拳のO先生から教えていただいた。

水が詰まった皮袋が我らの身体。骨はそこに浮いているのだそうだ。

確かに人体は、胎児で体重の約90パーセント、新生児で約75パーセント、子どもで約70パーセント、成人では約60〜65パーセント、老人では50〜55パーセントが水で満たされているという(どんどん少なくなることにガックリしますぅ。。)。

 

この身体の大部分を占める水分は、東洋医学の重要な基本概念をなし、津液(シンエキ)と呼ばれる。今回は、この津液についてお伝えしたい。

 

西洋医学においては細胞が変性することによって病気になるという細胞病理説をとるのに対して、東洋医学では体液病理説をとり、病気の原因は体液の不足・偏り・滞りにより、その流れが阻害されたことによるとされる。

体液とは、血(東洋医学ではケツと呼び、血液を指す。母乳も血に含まれる)と津液(シンエキといい、血以外の全ての体液をいうが、血を構成する原料にもなる)からなる。

つまり津液は、体表においては髪や肌を、顔では口・鼻・目を、体内においては五臓六腑を潤す。また関節内に巡っては動きを円滑にし、骨髄・脳髄をも満たすのだ。

(補足:津液には西洋医学でいうリンパも含まれるため、リンパドレナージュといったマッサージの技法や脳脊髄液を扱うオステオパシーやクレニオセイクラルなどの手技は、津液を扱う療法といえる。)

さらに津液は(ヨダレ)、(鼻水)、(ツバ)(注:五液という)といった代謝物を生む。これらの五液はそれぞれ内臓の働きと対応しており、涙はの液とされる。汗は、涎(ヨダレ)は、涕(鼻水)は、唾(ツバ)はに対応している。

そして体内での仕事を終えて余った津液は、腎で処理され最終的に尿として排出される。

<五液の例:「汗はの液」とは?津液の漏出である汗のかきすぎは、津液の一部から生成される血にも影響を与え、その血に関連する臓器は心となる(心臓は「血脈・血を主る」とされている。心ついてはまたいつか!)。よって汗のかきすぎは心臓にも負担をかける>

  

さて体内の水分であり、飲食物の栄養分から生成される津液。これが、どうなると病気になるのだろうか。

①津液の不足

栄養が不足すると、また不摂生な飲食により消化能力が低下すると、あるいは炎天下での作業や運動により過剰な水分が消耗すると、はたまた大汗によって水分が体外へ排出されると、津液は不足する。症状としては、口や喉、目や鼻が乾き、顔や髪の毛のツヤがなくなり、肌のシワが増え、たるむ。便秘にも。熱中症のように命の危険に晒されることもある。

②津液の滞り

胃や脾、肺といった津液を運搬する臓器が弱ると、あるいは腎などの水分代謝の働きをする臓器が機能低下したなら、行き場のない津液が余ってしまう。これは「湿(シツ)」となり、この湿は周囲の熱を奪って身体を冷やし、その湿は固まって「痰(タン)」となる。これを「痰湿(タンシツ)」といい、湿の邪気が様々な病気を発症させる。湿邪と関連する病には、むくみ、リウマチ、気管支喘息、関節炎、アレルギー性鼻炎、五十肩、コムラカエリ、湿疹や帯状疱疹といった水泡を伴うものなどもある。湿の性質は重濁であるため、病状も重くてだるい、疲れやすく眠い、痛だるいといった長引いてなかなかスッキリしない症状となる。治療としては、温めて湿をさばいていく方法をとる。

( 注:東洋医学では、気の種類として正気と邪気があり、邪気が正気に勝ると病気を引き起こすとされる。邪気には、風邪、寒邪、暑邪、湿邪、乾邪、火邪、陽邪、陰邪などがある。)

  

全身を潤す力を持つ津液

目指すべきは津液の巡りが良くて、水ハケの良い身体なのだ。

このためには、生命活動のオオモトであり血を作ったり巡らせることができるが必要となる。

気によって作られたは、血の流れに乗ってさらに気を全身へと運ぶ。

こうした気の力を借りて、飲食物の栄養分から津液は生成され全身を巡り排出へと導かれる。

つまり水ハケの良い身体は、気・血・津液の相互の協力が不可欠となる。

 

気については、以下の記事を参照。 

garaando.hatenablog.com

 

garaando.hatenablog.com

  

夏の酷暑に見舞われる近年、熱中症には水と塩分を取るようにと注意喚起されるようになった。

高齢者の認知症には、とにかく水を飲むようにと言われ、1日2ℓを測って勧められるケースもある。膝から下が浮腫んだ高齢者の方は、「水を飲め、飲めと言われるから頑張って飲んでいたら足の浮腫がひどくなった。心臓の先生からはあんまり飲みすぎるなと言われる。1日どの位飲んだらいいのか?」と聞かれることがある。

これは答えが難しい。

脱水症状は確かに怖いし、水分は必要だ。

しかし水が脳に溜まって水頭症になってしまい、よく転ぶようになる高齢者もいれば、

飲んだ水分がうまく巡らずに、足や手、顔といった部分が浮腫んでしまい、なんとも身体が重だるくなったり、関節が痛むこともある。

私たちの身体は、時、場所、天候、性格、体質、そして遺伝。。あらゆるものが関係した中で成り立っているのだから、その時の体調や内臓の状態などにより、水分の必要量は変化する。

また適切な水分量を取ったとしても、巡りが悪ければ湿邪となって新たな不調を生んでしまうのだ。

従って、ただ水分を補給するだけではなく、津液の巡りがよく水ハケが良い身体が求められる。

 

さて水ハケの良い身体になるには、どうしたらいいのだろう。

 

もちろん鍼灸治療や各種ボディワークも有効ではあるが、今回は私の勝手なオススメを紹介したい。

変幻自在に形を変え、流れながらも万物の中で最強の力を有するという水。

この水に丸ごと浸ってしまえという戦略で、 題して「朱に交われば赤くなる作戦!」。

 

作戦1 WATSU(ワッツ)

究極のアクアセラピーと言われるWATSU(ワッツ)。

これは、1980年にハロルド・ダール氏が生み出した水中ボディワークで、経絡の概念を盛り込んだもの。”Water Shiatsu"を略してWATSUと名付けられた。セラピストの誘導に従って行う水中の瞑想ともヨガとも言われる。

作戦2 フローティング・タンク

潜在能力の開発にも効果ありと言われるフローティング・タンク。アイソレーション・タンクとも言われ、アメリカの脳生理学者ジョン・C・リリー博士によって1950年代に発明された。光や音が遮られたタンクと呼ばれる空間に、皮膚温設定の高濃度エプソムソルト水が浅く張られている。強い浮力のある水に1時間以上浮かぶことで重力から解放され、無意識の世界を漂うような経験ができる。心理療法代替療法としても注目されている。

作戦3 入浴

最後にWATSU も 何とかタンクも行けないわ〜という方には、毎日簡単にできる入浴で。

身体を芯から温める目的のお風呂ではあるが、入浴には温熱作用だけではなく、水圧効果と浮力の効用があることを忘れてはならない。水圧が加わることで、体内の血液やリンパ液の流れが良くなり、浮力があるため脱力が簡単にできる。ただお風呂に浸かるだけではなく、ちょっと浮いてみる。

 

生命の根源である水。

その無限の力の波動の中で、

余分な筋肉の緊張を捨て去り、

不要な防衛の鎧を脱いで、

胎児の頃の遠い記憶をたどるように、

水袋であったはずの身体になってみる。

その時、きっと体内にも水のスムーズな流れができるに違いない。

 

流れる水の波動を身体に転写して、流体としての身体を呼び覚ます。

このことに憧れるのは、私の、あの至福の体験が忘れられないからなのかもしれない。

 

(後記)

先日お世話になっている中医学のお医者さんにお会いしてきました。日本のコロナ感染者は他国と比べて重傷者がまだ少ない。それは、お風呂の習慣のおかげとのこと。

お風呂で汗をかくと、肺の熱を出すことができる。肺に熱をためているとコロナが重症化するリスクが上がるそうです。汗をかく、熱を逃す。その意味で便秘もしないことが大事です。

また私が調べたところによると、 COVID-19は「湿邪」が特徴的な疫病です。その後の変異もあるでしょうが。。

感染が拡がっているコロナウイルスですが、どうぞシャワーだけの習慣の方、予防もかねてゆっくりお風呂に入って水の恩恵を受け取り、汗を出して湿邪を一掃してくださいね。

水分代謝がどれほど病気と深く関わっているのか、改めて考えていただけたらと思います。

 

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メキシコ、シアン・カアン生物圏保護区にて撮影

シアン・カアンとはマヤ語で「天空の生まれた場所」