“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

勝手に陰陽論18 気・血・津液(き・けつ・しんえき)

雪、雪、雪。

「小樽の街角でよく見かけるオンコの木。その赤い実がタワワになると雪の多い年になる」とか、

「猛暑の夏の後には大雪の冬が来る」とか、チマタでは言われていた。

そのとおり、ひさびさに冬の厳しさを噛みしめた今年の幕開けだった。

そして大雪だと悩まされる雪かきという重労働。屋根の雪下ろしでは、毎年決まって誰かが死んでしまう。

ただこの雪かきという作業は、なんだかトリッキーに思える。だって雪ってどんなに積もっても、どうせ消えちゃう。このいずれは溶けてなくなるものにかける労働の重さは、とても割りに合わないだろう。

しかし!

人間はどうせ出すのに食べる。食べて出して、出しては食べて。

息も吸って吐いて、吐いては吸って。

掃除もそう。どうせ汚すのに掃除する。掃除しては汚し、汚しては掃除する。

もっというなら、どうせ死ぬのに生きている。

輪廻転生するとしたら、生きては死んで、死んでは生きての繰り返し。

ああ!どうせ消えちゃうのになさねばならぬ雪かきは、どこか悟りの道へといざなう修行のように私には思えてしまうのだ。

かいてもかいてもまた降り積もる雪。ミゾレになったり雨になったり、固まっては氷になったりと、地上に浮遊する目には見えない水蒸気たちが有形にヘンゲして、その姿を現す。しかも3月にもなればすっかり溶けちゃって無形の世界へと戻るのだから、ああ無情!

 

というわけで今回は、「無形から有形へ、有形から無形へと変化し循環する」という事を見つめつつ、人体の体液について陰陽論を用いて考えてみたい。

 

西洋医学東洋医学の違いのひとつに、病気の原因の捉え方があげられる。西洋医学では細胞の変性が病気を引き起こす(細胞病理説)として細胞に焦点をあてる。これに対し東洋医学では体液病理説をとる。これは、体液やその巡りの不具合によって病気になるというものだ。

さて、この体液に関わるものとして、気・血(けつ)・津液(しんえき)という概念がある。(東洋医学用語は太字で表記)

 

 気・血・津液は人体を構成する基本要素  f:id:garaando:20220123145825p:plain

    気・血・津液は互いに協力し合う

1 気 について

東洋医学は気の医学である。こういわれるほどに自然界のエネルギーである気は、東洋医学の基本となる概念だ。

古代中国思想では、気は太極という宇宙空間に充満している、無形の極めて微細な物質であるとされる。そしてその気は万物を構成するオオモトであり、生命体をも創造する。

では人体の気を見てみよう。

遺伝的に両親から受け継がれる気を 先天の気 という。

さらに成長の過程で、呼吸や飲食物から獲得できる気を 後天の気 という。

この二つが合わさって、人体の生命活動に必要な 気 となるのだ。

先天の気 は運命的であり、その量も質も努力で変えることはできない。それに対して 後天の気 は自分次第でより充実させることができる。

なぜなら 後天の気 は、呼吸から得られる 天の気( 清気:セイキ)と 飲食物から得られる 地の気( 水穀の精微:スイコクのセイビ)が合わさったものだから。呼吸法を取り入れたり、食生活を見直すことで、もっと元気になれるのである。

そして呼吸によって取り込まれる 清気 と飲食物から得られる 水穀の精微 から、体内での 気・血・津液 が作られる。

<補足 : 気には、万物を構成する力を持つ、宇宙に充満する気(広義の気)と 人体に関わる気(狭義の気) とがある。自然界の根源的なエネルギーである気から人体は生まれ、さらにその人体は生命活動の一環として気を作ることができる。>

 

こうして呼吸や飲食物によってもたらされた人間の気には、以下のような作用がある。

① 推動(すいどう)作用:押して動かすように、血や水分の流れや内臓の働きを促進する。

温煦(おんく)作用:体温を保って温め、代謝をあげる。

③ 防衛作用:体表を保護して、乾燥や寒さ、湿度などの外界からの 邪気 の侵入を防ぐ。

④ 気化作用:体液を汗に、血を (エネルギー源)に変える。

固摂(こせつ)作用:汗や出血、尿などの漏出を防ぎ、水分を統制する。

このように様々な働きをする気が充実することによって、我らは元気になるのである。

 

気の作用についてはこちらも参照。

garaando.hatenablog.com

 

気についてはこちらも。

garaando.hatenablog.com

 

2 (ケツ)について

血は血管をとおる赤い液体で西洋医学でいう血液をいう。ただし東洋医学での「血」は、西洋医学でいうところの赤血球をさすと理解する方が良い。血液の血漿部分などは 津液 に分類されているからだ。

血の原料は、飲食物から作られる 水穀の精微 という栄養分である。我々は飲食物を体内へとり入れる。これらは胃で消化され、さらに小腸や大腸で吸収されて初めて栄養分となる。(注:こういった消化吸収の役割り全般は東洋医学では 脾 が担当するとされており、西洋医学のいう脾臓とは働きが異なっている。)

この栄養分をモトに血が作られる。そして (心臓)の働きによって、内臓から皮膚の隅々にいたるまで血は巡り、栄養源を全身へと届ける。肌や髪にツヤがあり目や皮膚が潤って、筋肉や骨が充実し、メンタルが安定しているのは、血の栄養が行き届いているといえるのだ。

 

3 津液(シンエキ)について

津液は、血(ケツ)以外の全ての体液(リンパ液も含む)をいう。これは、飲食物から得られる 水穀の精微 が 脾 の働きによって吸収され変化してできたもの。体内の各部に潤いと養分を与える。髪や皮膚はもとより、目、鼻、口を、さらには臓器をも潤す。また関節に入っては動きを滑らかにし、脳・脊髄をも満たす。

こうして体内を巡る水分は、汗・涙・つば・ヨダレ・鼻水という代謝物となって、また不要になった津液は便や尿となって、体外へと排出される。

 

ここで陰陽論の視点からこの気血津液を見てみよう。

陰 とは、集約され凝集されて下や内へと向かう、物質的で量的な性質で目に見える。

陽 とは、放出し拡散されて上や外へと向かう、機能的で動的な性質で目に見えない。

よって陰は陽に比べて比重が大きくなることを踏まえておきたい。        

気・血・津液の中で、血は物質性が一番高く 陰 的要素が強い。

また気は最も動的で形を持たず 陽 的な存在となる。

津液は、陰と陽との中間的な位置をしめる。津液は血に材料を提供し(陰に向う)、また汗となって排出されるように、気化して蒸発する(陽へ向う)からだ。

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ここで重要なのは、この3要素が個別のものではなく流動的に混ざり合っていて、常に動いているということである。同じ血液でもドロドロの時もあればサラサラになることもある。鼻水や汗も場合によって濃度や性質は変わる。成人の身体の60%以上を占めるという水分は、気と津液と血との間で関わりあい、エネルギー交換しながら常に変化している。

 

我らは外界から気と飲食物とを取り入れる。

これらは、混ざり合いながら消化と吸収の代謝プロセスの中で栄養や液体成分となり、

さらに生命活動に必要な気血津液を作り出す。

この気血津液は、時には比重が増して物資化したり(陰)、またある時には気化して蒸発したり(陽)する。こうして陰と陽との世界を行き来しながら体内を巡る。

汗や鼻水、ツバといった代謝物を体外へと放出し、

最終的な不要物は大便や尿となって体外へと排泄されるまで、巡るのだ。

 

陰と陽とは、分離できない。

陰陽論とは、交換しあいながら移り変わる自然界の法則、

これを理解するためのひとつの世界観であり、方法論なのだ。

 

自然界の水蒸気は、雨や雪、そして氷にもなって姿を現す。

はたまた雪や氷は、溶けてしまうと形を失う。

我らの身体の中の水分も、

体内の微妙な条件に応じて、

その比重を刻々と変えながら、

自然界の掟にそって動き続けていくのだ。

 

(後記)

どうせ死ぬのになぜ生きるのだろうか?

私はこのことが頭から離れない子供でした。

こんな自分と私は長年付き合ってきたのだから、私自身が疲れてフーフーです。

ただこの疑問を持っていたことによって、私は多くの気づきをもらった気がします。

 

毎日降り続ける雪を見て、あるいは雪かきをしながら、

昔から考え続けてきた問いを思い出しました。

 

なぜ生きるのか?死ぬのにねぇ。

やっと見つけた答えのようなものは、「生きているプロセスこそが大事だ」ということでした。

今でしょ、今!

イマナカでしょ!!って感じ。

 

せっかく雪が降るので、雪かきをします。

雪に覆われた静謐さにどっぷりとつかります。

雪国の皆様、雪かき頑張りたいですね。

 

またウイルスから身を守るためにも、免疫力をつけなくてはなりません。

これには、質の良い睡眠と少食を心がけてくださいね。

かいてもかいても降り積もる雪を見たらグッタリするように、

分解し吸収する消化器の細胞たちも、働いても働いても食べ物が降り注いできたとしたら、どうでしょうか。

消化に使われるエネルギーは思っている以上に膨大です。もしかして雪かきのエネルギー量に匹敵するのかもしれません。

具合が悪ければ絶食する動物たちのように、疲れたところを回復するために、エネルギーを節約しましょう。それこそ免疫があがります。

ぐっすり寝てください。

そして良い食品をゆっくり食べてください。いつもより量をちょっと少なめにして!

 

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2022年お正月、小樽にて撮影。

津液については、よかったらこちらも!

garaando.hatenablog.com