“ 伽藍堂 Garaando ”

〜 さかうしけいこ が語る東洋医学の世界 〜

東洋医学各論10  衛気(えき)

ここ数年の私は、滅多にテレビを見ない。

時折テレビで話題の政治家たちを拝見する機会があると、その内容よりも気になることがある。

お化粧を落としたこの知事の素顔は、ホントはどんな??

顔色の悪い老齢のこの方は、本当にツラの皮が厚いの??皮膚も厚いの薄いの??

鉄面皮に見えるこの方だから、全く噛み合わない答弁を繰り返すことができるわけ??

 

ツラの皮が厚くて鉄のように硬いというのは、外界からの干渉を跳ねとばす防衛機能が旺盛であることの象徴のようだ。

 

今回も、人体の皮膚について東洋医学の視点から触れてみたい。

 

前回の記事で示したように、皮膚は自己を個体ならしめ外界との境界をつくる役目が最も大きい。我らは皮膚によって自己を外界と区別し、境界線を引く。

どこまでが自分の内部でどこからが外部なのかといった境界線を。

外部との様々な情報やエネルギーの交換をしながら、生命体として維持できるようにと内部を守る役目が皮膚にはある。

気の医学と言われる東洋医学では、この皮膚の表面に、さらに皮膚を守る気があるとされる。そしてそれは防衛の衛の字を用いて、衛気(えき)とよばれている(以下、東洋医学用語は太字で記載)。

<注:この衛気は、経絡(体内にめぐっているとされる気のライン)や血管の外を流れる気であり、体表を覆い外邪から内部を守る働きがある。これに対して経絡や血管の中を流れる気で全身に栄養を運ぶ働きをもつ気を営気(えいき)という。>

 

この体外と体内については、この記事を参照

garaando.hatenablog.com

 

粘膜や表皮を保護する気である衛気

この衛気が希薄になると、外邪(外部にある邪気:風・寒・暑・湿・燥・火といった過剰に強い性質を持つ気)に対抗できずに、外界からの刺激(日光、寒湿冷、静電気など)やアレルゲン(ダニ・細菌・ウイルス・ほこりなど)に反応しやすい。

アトピー、敏感肌、乾燥肌は皮脂膜が薄く、角質層の水分やセラミドが不足しているため皮膚のバリア機能が低下しているといえる。そしてこのバリア機能の一端が、まさに皮膚の表面を覆う衛気なのだ。

 

また人間は起きて活動している時は、外部への注意が払われており、外に向かって気を張っている(交感神経優位)。就寝時は、内部へと気が向かう。こうして内臓の自律的活動へエネルギーが注がれ外へ向かう気は手薄となる(副交感神経優位)。寝る時には毛布や布団をかけるのは、手薄になった体表を保護し外界からの異物の侵入を防衛するためなのだ。この毛布や布団の役割を衛気と考えてみるとわかりやすいかもしれない。

普段の私やあなたは、目にはみえないどんな毛布や布団を身にまとっているのだろう。

目の詰んだ毛布や弾力があって厚みのある布団のような衛気を帯びている人は、免疫力が強いのだ。

 

衛気の充実。これは健康を守るうえで大切になる。

この視点で見てみても、

消毒のしすぎや洗いすぎで手が乾燥してカサカサしたり、薄くなったり、はたまた指先が逆剥けで痛むのは、衛気が希薄になった状態であり免疫を弱めてしまう。

酵素や麹といった発酵食品を手作りすると、皮膚がしっとりして手がプクプクになる経験がある方も多いと思う。発酵食品が免疫力をアップするというのは、微生物の力をかりて生命体を生き生きとさせ、ひいては気の充実を図ることができるからなのだ。内と外との観点からみても、胃や腸の粘膜(内)の健康はとりもなおさず表皮(外)にあらわれるのだから、消化器の内膜が健康になると、適度な潤いがあって弾力のある外皮が形成されて、身体全体の免疫力があがるのである。

 

 衛気(えき)と呼ばれる 気 。

それは、地球にオゾン層があるように、身体の表面を覆い我らを外敵から守ってくれている。

 

 

<おまけ:臨床例>

熱感と痒みを伴う発疹ができるという蕁麻疹。

数時間で症状は消えるが繰り返す。掻いたらミミズ腫れになる。

蕁麻疹の原因のひとつに気虚(えききょ:衛気が乏しい)があげられる。そのため皮膚の抵抗力が低下がする。日光・寒冷・温熱刺激、発汗などの影響を受けやすく、疲れがたまる夜にでやすく寝ると治っていることも多い。

衛気を充実させるためには?自然のリズムに合わせて暮らし、食生活を見直し、太陽を浴びて陽気のバリアをまとい、疲れをとることが大事。これでも症状が改善されない時は、漢方薬の力を借りるなどがオススメ。

 

(後記)

今回は、衛気という気のバリアで外敵の侵入を防ぐという防衛力について書きました。

これは健全な防衛という意味で衛気を取り上げたのですが、メンタルが絡んだ過剰な防衛というのもあります。 鉄面皮 とか ツラの皮が厚い という言葉で表される防衛は、健全とは言い難いと思います。

このことについて説明を少し。

精神分析フロイトの弟子であるウィリアム・ライヒは、感情的抑圧が身体の一部分を硬直させ、筋肉の鎧をつくるという心身相関に着目しました。つまり筋肉を硬くして防衛する。この背景には感情的抑圧があると。

さらにライヒの弟子アレクサンダー・ローエンが、バイオエナジェティックスというボディサイコセラピーの先駆けとなる治療方法を打ちたてました。これは、防衛によって筋肉に閉じ込められ、流れを止められてしまった生命エネルギーを回復させるメソッドです。

 

 バイオエナジェティックスについては、こちらも参照

garaando.hatenablog.com

  

防衛は、自分と自分自身との関係、自己と他者との関係といった、さまざまな関係性をめぐる重要なテーマだと思います。

 

自分を守るために必要である防衛。

これがともすれば過剰となり、

あるいはそもそも自分の境界がわからずに、自己と非自己を見分けるバウンダリーが曖昧となって、

自己免疫不全というアレルギー系の疾患の原因にもなってしまいます。

 

健全な防衛 と 健全なバウンダリー

この繋がりあう世界にあって、

これは私にとっても大きな課題のひとつだなぁと感じています。

 

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ベネズエラ、ラ・グアイアとカラカスの間にそびえたつアビラ山のふもとを撮影

 

気については、こちらも参照

garaando.hatenablog.com